そっぽを向いていたあかりがゆっくりとこちらを向く。
とりあえず、こっちを見てくれたことにすこしホッとしたんだけど。
でも、その瞳は・・・・
「でもひかる。本当にすごいもんね。この前雑誌に載っていたよ」
そう言ってすこし寂しそうに笑って、俺を見てくるその眼差しは。
胸が少しずつじわじわと締め付けられるそんな気がした。
違う、あの瞳は・・・・・
ダメだ、あの眼差しは・・・・
寒さが体全体を少しずつ支配し始める。
「すごいよね」
そう言って見つめるその瞳は・・・
『俺』じゃない。『俺』を見てない。その眼差しの先にあるのは、『進藤プロ』だ。
ファンとか言って近づいてくる人と同じ。
指導碁先の人たちと同じ。
雑誌の記者の人たちと同じ。
『進藤ひかるプロ』を見る瞳。
違う!!俺は『進藤ひかる』で、あかりは『俺』を見なきゃいけないのに!!
「あかり!!」
思わずそのあかりの眼差しに耐えられず、大きくきつく名前を呼んでしまう。
あかりはビックっとして、ちょっと脅えた瞳を俺に向けた。そう『俺』に。
「まったく、なんて顔してんだよ」
『俺』をやっと見たあかりに少し安堵しながら、手を伸ばしあかりの頬に触れる。
そしてびよーんってそのやわらかい頬を引っ張った。
「な、な、いひゃい」
引っ張られた頬のまま、あかりが抗議する。
これはあんな瞳で俺を見た罰だ!って心の中で思いつつ。
「かまってほしそーな顔するからさ」
頬を摘んでいた手を離して、にやーって意地悪っぽく笑ってやる。
幼い頃からあかりに意地悪してからかっていた、その頃の笑顔で。
「な、してないのに!!」
目に微かに涙を浮かべてあかりが抗議した。
つかまれていた頬は少し赤くなっていた。
「してたね」
そう断言して、俺は立ち止まっていた足をすこし早めに先へ進める。
「ほら、あかり。早くしないと日が暮れちゃうぜ」
振り向いてあかりを促せば。怒った顔のまま駆け寄ってくる。
「ひかる!私怒っているんだからね!」
そう言いながら、赤い頬を手で押さえてぶつぶつ文句を言っている。
「あかり、頬のお詫びに映画の時、ケーキでも奢るよ」
思ったより赤い頬に微かな罪悪感が生まれる。
あかりは絶対だからね!!っと念を押してきた。
「あかりさー。悩みあるなら聞いてやるぜ。憂さ晴らしも付き合おうか?」
「え!?」
「幼馴染だもんなー、俺ら」
俺はあかりの笑顔に救われたんだ。いらいらしていた気持ちも軽くなった。
あかりの何気ないひと言で楽になった。
だから、あかりに悩みがあるのなら助けてやりたかった。
だって、俺たちは幼馴染なんだ。
ずっとここにこうしているんだ。
あかりにはいつも笑っていてもらわないと困るんだ。
あんな瞳で見られるのは困るんだ。
だってあかりは俺の幼馴染なのだから。
だからあかりを見下ろして
「だろ?」
そう言って笑う。
あかりはそんな俺をちょっと複雑な顔をして、見つめたあと。
「ありがとう」
と、そう言って微笑んだ。
そう、俺たちは幼馴染だ。これからだってずっと。
ずっと一緒にいるんだ。
あかりが俺の幼馴染でよかった・・・
俺はこの日そう思った。
進藤君。あかりちゃんの存在の大切さになんとなく気づきます。
気づきますが、存在の大切さであって、女とか好きとかそういうのじゃないんですねー。
ちなみに、あかりちゃんはちゃーんと気づいてます。
自分の気持ちを自覚してます。
でも、進藤君があんまりにも自分を幼馴染としか見ていないため、言い出せないんですね。
映画のチケットも自分が行っていいのだろうか?と思いつつ。
他に誰か誘う女の子居るのかなって?思わず探りを入れているんですよ。
でも、ストレートには聞けないのですね^_^;
進藤君の『幼馴染』というセリフに寂しさを感じつつ、
でも今はその場所に居られることに安堵して嬉しく思って。
少々複雑な心境なのです。
と、思わず自分で解説。読んでくださった方に伝わっているでしょうか?
どうもつたない文章です(^_^;)
⇒目次へ