いらいらする -4-


     そっぽを向いていたあかりがゆっくりとこちらを向く。
     とりあえず、こっちを見てくれたことにすこしホッとしたんだけど。
     でも、その瞳は・・・・


     「でもひかる。本当にすごいもんね。この前雑誌に載っていたよ」
     そう言ってすこし寂しそうに笑って、俺を見てくるその眼差しは。
     胸が少しずつじわじわと締め付けられるそんな気がした。

     違う、あの瞳は・・・・・
     ダメだ、あの眼差しは・・・・
     寒さが体全体を少しずつ支配し始める。
     「すごいよね」
     そう言って見つめるその瞳は・・・

     『俺』じゃない。『俺』を見てない。その眼差しの先にあるのは、『進藤プロ』だ。
     ファンとか言って近づいてくる人と同じ。
     指導碁先の人たちと同じ。
     雑誌の記者の人たちと同じ。
     『進藤ひかるプロ』を見る瞳。

     違う!!俺は『進藤ひかる』で、あかりは『俺』を見なきゃいけないのに!!



     「あかり!!」
     思わずそのあかりの眼差しに耐えられず、大きくきつく名前を呼んでしまう。
     あかりはビックっとして、ちょっと脅えた瞳を俺に向けた。そう『俺』に。
     「まったく、なんて顔してんだよ」
     『俺』をやっと見たあかりに少し安堵しながら、手を伸ばしあかりの頬に触れる。
     そしてびよーんってそのやわらかい頬を引っ張った。

     「な、な、いひゃい」
     引っ張られた頬のまま、あかりが抗議する。
     これはあんな瞳で俺を見た罰だ!って心の中で思いつつ。
     「かまってほしそーな顔するからさ」
     頬を摘んでいた手を離して、にやーって意地悪っぽく笑ってやる。
     幼い頃からあかりに意地悪してからかっていた、その頃の笑顔で。
     「な、してないのに!!」
     目に微かに涙を浮かべてあかりが抗議した。
     つかまれていた頬は少し赤くなっていた。

     「してたね」
     そう断言して、俺は立ち止まっていた足をすこし早めに先へ進める。
     「ほら、あかり。早くしないと日が暮れちゃうぜ」
     振り向いてあかりを促せば。怒った顔のまま駆け寄ってくる。

     「ひかる!私怒っているんだからね!」
     そう言いながら、赤い頬を手で押さえてぶつぶつ文句を言っている。
     「あかり、頬のお詫びに映画の時、ケーキでも奢るよ」
     思ったより赤い頬に微かな罪悪感が生まれる。
     あかりは絶対だからね!!っと念を押してきた。


     「あかりさー。悩みあるなら聞いてやるぜ。憂さ晴らしも付き合おうか?」
     「え!?」
     「幼馴染だもんなー、俺ら」

     俺はあかりの笑顔に救われたんだ。いらいらしていた気持ちも軽くなった。
     あかりの何気ないひと言で楽になった。
     だから、あかりに悩みがあるのなら助けてやりたかった。

     だって、俺たちは幼馴染なんだ。

     ずっとここにこうしているんだ。

     あかりにはいつも笑っていてもらわないと困るんだ。

     あんな瞳で見られるのは困るんだ。

     だってあかりは俺の幼馴染なのだから。


     だからあかりを見下ろして
     「だろ?」
     そう言って笑う。
     あかりはそんな俺をちょっと複雑な顔をして、見つめたあと。
     「ありがとう」
     と、そう言って微笑んだ。


     そう、俺たちは幼馴染だ。これからだってずっと。
     ずっと一緒にいるんだ。
     あかりが俺の幼馴染でよかった・・・
     俺はこの日そう思った。




     進藤君。あかりちゃんの存在の大切さになんとなく気づきます。      気づきますが、存在の大切さであって、女とか好きとかそういうのじゃないんですねー。      ちなみに、あかりちゃんはちゃーんと気づいてます。      自分の気持ちを自覚してます。      でも、進藤君があんまりにも自分を幼馴染としか見ていないため、言い出せないんですね。      映画のチケットも自分が行っていいのだろうか?と思いつつ。      他に誰か誘う女の子居るのかなって?思わず探りを入れているんですよ。      でも、ストレートには聞けないのですね^_^;      進藤君の『幼馴染』というセリフに寂しさを感じつつ、      でも今はその場所に居られることに安堵して嬉しく思って。      少々複雑な心境なのです。      と、思わず自分で解説。読んでくださった方に伝わっているでしょうか?      どうもつたない文章です(^_^;)                
               
               
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