こんな一日2


どうしよう?
さっきまで怒っていたのはホント。寂しくて、碁の方が私より大切なんだって悔しくて。
でも、必死に自分の機嫌を取ろうと頑張っているひかる。

私は多分、ちゃんとひかるに大切に思ってもらえてる。
ただ、ひかるは碁もすごく大切で。

寂しいのもホント
ひかるが碁に向けるその真剣さを熱意を自分にも向けて欲しいのもホント。
碁に負けてしまっているような気がしているのもホント。

でも、ひかるが私を大切に思っていることもわかっている・・・・
不器用なひかる。

碁にやきもちなんて・・・・
つまりはそう言うこと。

ぎゅうと私を抱きしめるひかる。
「ごめん」と謝るひかる。
ごめん・・はきっと私。わがままな私。ひかるの一番になりたくて・・・

『別の人といっちゃう』なんて意地悪な脅しをかけてしまって・・・
ごめんね・・・

おろおろと慌ててるひかる。
でも、ちょっとこういうひかるを見るのも好きって言ったら怒るかな?
だって、大切に思われているんだなって判るから。すこし安心できるから。

でも、本当は。こんなこととで判るんじゃなくて、もっと私を見てくれたら・・・
もっと私に・・・
それは我がままかな?

勝負の世界で生きているひかる。
勝ち続けなくては、強くならなければいけない世界。
他人との戦いの日常。

碁に集中するのは当然だから。
ごめんね、ひかる。



「ごめん。だから、な。帰るな」
しばらくそのまま大人しく抱きしめられていたあかりが、
不意にひかるの手を押しのけて立ち上がった。

「あかり?」
大人しくしていたから機嫌直ったかなと思っていたひかるは、戸惑って名を呼ぶ。

「今度ちゃーんと映画に連れて行ってね。約束だよ」
うん、うん、と頷くひかる。
「それから、さっきおば様に夕食にご招待されたの。夕食の後、指導碁してくれる?」
こくんと頷く。それを見てあかりはふわりと笑った。

「約束ね。じゃあ、私、おば様のお手伝いしてくることにする」
「へっ?」
「大切な検討の途中なんでしょう? 続きやってて。私、帰るわけじゃないからいいでしょう?」
「夕飯の支度手伝うの?」

「だって、ご馳走になるんだし。検討しているひかるのそばでじっとしているだけなのも、ちょっと。だから」
ダメ?って瞳で聞いてくる。

「いや、ダメって訳じゃ」
あかりがかあさんと夕飯を作るわけ?不意にその光景が頭に浮かぶ。悪くない・・・

「あ、じゃあ、夕飯までには絶対検討終らすから・・・」
「ねえ、ひかる」

あかりはドアに手をかけながら、静かに振り向いて寂しげな眼差しをみせる。
「たまには私を見てね。いつもじゃなくていいから」

そして、次の瞬間には晴れやかな笑顔をひかるに見せて、
「おば様―!手伝います!!」と明るい声を響かせながら階段を下りていく。

ひかるは小さくため息をついた。
あかりにあんな寂しげな瞳をさせるつもりは無いのに。つい、碁に夢中になってしまう。
あかりなら大丈夫という気があってあかりに甘えてしまう。

「俺が悪いよなー」
あかりは普通の女子高生。社会人の俺とはただでさえ時間が合うことが少ないのに。
手放したくは無い、失いたくはない。今度こそなくさない。なのに。

「やばいよなー」
はぁー、と頭を抱えた時。開いたままのドアから階下の楽しそうな笑い声が聞えた。
自分の母親とあかりの声。話の内容までは聞き取れないが楽しそうな声。

あ、なんかいいかも。
今、あかりが手に届くほど傍にいるわけじゃないけど、それでもすごく傍に居てくれているような気がする。
二人の声を聞いているとすごく安心する、なんか胸がほっこりする気がしてくる。

「とりあえず、夕飯までに検討終らせなきゃな」
ひかるはまた碁盤に向き直る。

ドアはわざとあけたままにしておく。
そこから聞える二人の声を聞いているとすべて大丈夫な気がしてくる。
そして、また碁に集中する。すごく落ち着いた、おだやかな気分で。



ところで、その日の夕飯。進藤家ではちょっとした爆弾発言があった。
もちろん言った本人は気づいていないが。

「これあかりが作ったわけ?」
料理の一品を摘みながらひかるが問い掛ける。
「うん。おば様に教えてもらいながら。ねえ、どう、美味しい?」
恐る恐るあかりが逆に質問する。

「うん。結構うまい」
にっこり笑ってひかるが答える。
「あかりちゃん。とても料理が上手なのよー。いろいろ教えがいがあるわー」
にこにこ母親が上機嫌で話す。父親は「ほう」と言いながらその料理に手を伸ばしていた。

そのときである。
「へー、じゃああかり。いっぱい母さんの料理覚えろよな。
あっ、今度あのハンバーグ教えてやってよ。俺の好物のやつ」
そう、まるで自分のお嫁さんに母親の料理を覚えさせようとする夫のセリフのような言葉。
それを当然とばかりに自然に口に出したひかる。

目の前であかりが真っ赤になり、両親はびっくりして息子を見ていることに気づかずに、
ひかるは満足げに料理に手を伸ばし、美味しそうに食事を続けた。





本人目線に初挑戦でした。ひかる君食べ物で機嫌取り。単純君です^_^;

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