後悔・・・
◆ ある少女の場合 ◆



すでにクレオパトラの仮装が決った少女は、黒板をその綺麗な顔に似合わない渋い顔で見つめていた。

クラスメートからの意見が書かれたその黒板。

バニー・アラビアンナイト・ギリシャ神話・メイド・アリス・・・・

いくつか候補に挙がった、恐らく彼女に似合うであろう仮装の数々。

だけど・・・・

椅子に座って大人しく自分の仮装候補が挙がるのを黙って聞いている少女を見つめる。

黒板の前でクレオパトラの少女は小さくため息をつく。

これではダメだわ・・・・・・

思い出すのは一年前の出来事。






そのとき私は暢気に廊下の窓から中庭を見下ろしていた。

「相変らず、もてるわねー」

そんなことを美紀と笑いながら話していた。

呼ばれて行った少女は、少し前彼氏ができたばかりだ。

可哀想に、台上にたつ少年は少々遅すぎたのだ。

と、言っても早くても上手くはいかなかったと思うが。

そのまま眺めていると、ぞくぞくと男子生徒が中庭に下りてくる。

「・・・・すごいわねー」

美紀がつくづく感心する。

「まあ、今日はお祭だしね。」

ぞくぞくと集まる人数の内、何人が本気だろうか?

今日あかりは進藤君を連れてきた。

囲碁のプロに指導碁を依頼して来てもらったという触れ込みだが、

たかだか高校の文化祭にプロが来るのだ、余程の仲の良さじゃないと頼めない。

しかも、若手の注目株。

つまり・・・『もしかして彼氏じゃないか?』といううわさが学校中を駆け巡った。


だからこそ、焦った人が多いのかもしれない。

それに、これを機会に!!という人もいるだろう。

そして明らかにノリっぽい人達もいて、クラスの声援に笑って片手を挙げて答えている。

だけど・・・・





いきなり現われた進藤プロ。

よく聞えないが、何かを怒鳴り散らして、止めるあかりを抱えあげて・・・・

「ちょっと、なにあれ!?」

美紀が驚いて目を丸くして身を乗り出す。

私も唖然として見下ろした。

抱えあげられたあかりは必死に抵抗しようとしていて・・

「あの、バカプロ!」

私は勢いよく中庭に向けて走り出した。




中庭につけば、すでにあかりたちはいなくて。

司会の一人の方が「2人は幼馴染でして・・・・」とか何とか言ってなんとかその場をまとめていた。

とにかく、あかりを早く助けないと・・・それが頭によぎる。

暴力なんてふるったら許さないわよ!

そう思いながら、二人が向かった方向へと走り出す。




場所は囲碁部の部室。今日は囲碁部の控え室になっていた。

その小さな部室の前には佐々木君が立っていて、私を見て軽く首をすくめてドアを指差す。

「俺は聞いてないぞ!!なんだよあれは!!!」

バカプロの声がドアの中から響く。

「何って!お祭じゃない!みんな本気じゃないわよ!!

あんな風にめちゃくちゃにするなんて、何考えてるのよ!!」

「お前は俺のだって言っただろ!!なに、あんな出し物に出てんだよ!

それに、あかりがもてるなんて聞いてないからな!!なんで言わないんだよ!」

「私は物じゃないもん!それになんでそんなこと言わなきゃならないのよ!!」






「・・・・佐々木君。何暢気に立ってるのよ。止めなさいよ」

思わず、中からの威勢のいい喧嘩の声に少々圧倒される。

あかりのこんな怒鳴り声なんてほとんど聞いたことがない。

恐らく最初から居たであろう囲碁部の少年は、首をすくめて

「いや、宥めようとしたら追い出された」と軽く説明する。

彼の後ろにはオロオロとした部員数名。

「私が行くわ」

あきらかに興奮している進藤君にあかりが叩かれでもしたら・・・

「ちょっと進藤君!落ち着き・・・・・」

勢い良くドアを開け・・・・え!?




「あかり!ちょっとまて!それはまずいって!!」

あかりが進藤君に今にも碁石投げつけようとしていた・・・

あのあかりが・・・・



ぐずっと涙に濡れた瞳でドアの方を向くあかり。

進藤君はその隙にあかりの手から碁石の入った入れ物を奪い机に置きなおして明らかにホッとしていた。

「志保〜・・」

あかりがうわーんと私に抱きついてくる。

「ヒカルがー。あんな・・・明日から学校来れない〜」

恥ずかしい・・・と泣き出すあかり。

「あかりー!悪かったって。だけど・・お前が悪いんだからな。

あんな出し物でて・・しかももてるって何で言わないんだよ」

ぶつぶつと泣いているあかりに向って文句を言う彼。

「何で私が悪いの!それに言ってどうなったっていうのよ!!」

私にしがみ付きながらも、しっかりと言い返すあかり。

「知ってたら、もっと早くに付き合ってたに決ってんだろう!!」

俺のなのに・・・・あいつら・・・と悔しそうにブツブツ言い出す。





あかりはショックでとっさに何も言葉が出てこないらしい。

私も唖然として言葉にならない。

『幼馴染』を連発していたバカは誰なの・・・・

「ヒ、ヒカルの・・・・バカー!!」

特大のあかりの怒声が控え室に響く。そしてそのまま私にしがみ付いてさらに泣き出す。

進藤君が困ったような顔をしながらおろおろとあかりを見つめる。

泣くなら俺のところで泣けよーと呟くのが聞えた。





・・・・・頭にきた。

幼馴染・幼馴染を連発して、あかりを振り回していたくせに。

頑張るあかりに全く気がつかずに、ただの幼馴染扱いしていたくせに。

幼馴染って言って、あかりの告白を事前に封印していたくせに・・・

もてるって知っていたら、もっと早く付き合っていた?

俺の?

最初に紹介されたときは、あかりが嬉しそうに紹介するから大人しくしていたけど。






「・・・このバカプロ」

小さく低く呟く私の言葉に進藤君が首を傾げる。

「え?」

「このバカプロ!!って言ったのよ!!あかりはねー、もてるのよ!!

それを『幼馴染、幼馴染』って言って彼氏でもないくせに、散々連れまわしていたのは貴方でしょう!!

 もてるの知らなかった?考えれば想像できることでしょ!!あかりは可愛いんだから!」

目の前でうっ!と詰まるバカプロ。

「志保・・・、あの・・・」

あかりが唖然と私を見つめる。

「あかり!こんな我がままやめときなさい!」

お祭ごとであんなことをするなんて・・・。

いままで暢気だったくせにいきなりやきもち焼きすぎる。

「え!志保・・」

「な!何言って!!」

進藤君が慌てて抗議の声をあげる。

その進藤君をキッと睨みつけた。

「あかりと付き合いたいって男はね、一杯いるのよ。学校にも外にもね」

大学生が告白してきたこともあるのだ・・・

「進藤君だけじゃないんだから!!覚えておきなさいよ!」

進藤君は少々青ざめる。

「し、志保。落ち着いて・・・」

あかりはもう泣いてはいないようだ、逆に私を宥めようとしている。

「進藤君よりもあかりを大切にしてくれる人なんていくらでもいるんだから。

今度泣かせたら承知しないわよ」

進藤君は青い顔のまま、こくこくと頷く。




「さすが、女子剣道部部長。すげー迫力」

振り向けば、先ほどの司会者と佐々木君が「おおー」と賞賛の声をあげていた。

「・・戸田君」

何で?しかもマイクもってる?

「よう!進藤久しぶり。しかし相変らず喧嘩は派手だな、しかも今回は萩野まで参戦だもんなー。」

その司会者は軽やかに進藤君に挨拶する。

が・・・

「戸田、てめー」

進藤君はその少年を睨みつけた。

「よくもあかりをあんな出し物に連れ出してくれたなー。あかりは俺のだって知ってただろう!!」

「ごめんねー、戸田君」

怒る進藤君を他所にひたすら謝るあかり。

そう言えば、三人とも同じ中学。

「悪かったよ進藤。だけどさ、俺が知る限りじゃお前らまだ唯の幼馴染だったろう? 

少し前に藤崎に確認したときも幼馴染だったぞ」

困ったように弁明する。

「この前付き合ったんだよ!!」

「じゃあ、仕方ないな。あの男子生徒の依頼受けた方が前だったから」

「何でその時点で断らないんだよ!!」

「そりゃ、唯の幼馴染じゃな。普通断らないだろう?告白をするだけだし」

「・・・・・・」

悔しそうに進藤プロが睨んでる。

「トロトロしてる方が悪いだろう?ちなみに、藤崎は中学のころからもててたぞ。

お前ほんっとに気づいてなかったんだな。碁もいいけど、盗られてもしらないぞ」

中学の時と違って、高校じゃお前らのことみんな知らないからなと戸田君が忠告する。

進藤君はさらに青ざめた。

とどめだったのは言うまでも無い・・・・






なお、戸田君は実況中継!!と言ってやってきたらしく。

この後、窓から中庭に向って結果報告などをしていた。

つまり、このときのやりとりの様子は学校中に知れ渡り、

あかりが進藤君と付き合っているというのは誰もが知っている事実になった。

そして・・・

進藤君はその後プロ棋士という立場を利用して、指導碁と言ってせっせと学校に顔を出す。

いや、確かに指導碁をしているけど、絶対あれは牽制だと思う。

部活後、進藤君が堂々とあかりの手を握って校内を歩いているのを何度も見かけた。

 「ヒカル〜」と顔を赤らめ抗議するあかりを無視して「ほら、早く帰ろうぜ」と、

笑ってしっかりと手を握り締める。






のんきだったくせに、自覚したとたん独占欲がすごいなんて・・・・

私は小さくため息をつく。

教室にいるあかりに目を移す。

少々不安そうに黒板を見つめている。何を着させられるんだろう・・・とでも思っているのだろう。

昨年の進藤君が脳裏に浮かぶ。

そして、また黒板に目を移す・・・

一番端に書いてあった一つの名前。

票的には少ない・・・

「あかりはこれをやって」

その名前に丸をつける。

あかりはちょっとホッとしたようだが、教室内からは抗議の声があがる。

だけど・・・

「彼、今年も来るのよ。指導碁で」

そう私が言うと、教室内からは抗議の声が無くなり。

かわりにあかりがカァーと赤くなる。





私は小さくため息をつく。

ごめん、あかり。言い過ぎたわ・・・

彼のやきもち焼きの原因の一つは去年の出来事なのだろうか・・?

あかり、でも本当にいいの・・・?

そう思いつつも、あかりが彼を本当に好きなのだから仕方ないことで。

だから私は・・・

ごめんあかり・・・と微かに後悔する。






そして2人の少年少女は一人の少女の苦労を思い

一人は部員の前で、一人はクラスメートの前で深く大きくため息をつく。




幼馴染なので喧嘩は派手にね(^O^) でも、進藤君があかりちゃんに手を上げることはあり得ないのです(^^) さて、後半です。想像ついたかと思いますが、脅したのは志保ちゃんです。 「笑顔」で何でこの娘はこんなに怒っているの?と思われたかもしれませんが、 そうです!!志保ちゃんに怒りを爆発してもらわないと、このサイトの進藤君が誕生しません。 なので、「笑顔」で志保ちゃんには、ふつふつと怒りを貯めてもらったのです(^_^;) ただ、ちょっと上手くまとまらなかったので、予定外に戸田君まで登場! 困ったときの荒業、登場人物を増やす!!ですね(ーー;) 実はこのエピソードは随分前に決ってました。それこそ「憧れ・・」を書き終わったあたりには。 ただ、どこに入れるかなー・どう話の流れを持って行くかなー・誰目線で書くかなーが決らず。 結果、こういう形になりました。どうでしょうか? さて、前半後書きに書きましたように、やっとここまできた!という感じです。 一応、私の中の「ひかりシリーズ」ラストシーンは決っておりまして(^_^;) そこに向ってエピソードを書いております。 実はここまで作品数が増えるとは思っておりませんでした。 予定外に浮かんでしまったものが、一つや二つでは足りません・・・・ ただ、予定では終りが見えてきたかな・・・やっとです。 でも書いていない・・・ しかも、また増えるかも・・・(^^;) まあ、もう少々お付き合いくださいませ。 なお、拍手にて「融君シリーズ」も何気に進行中です。 ・・・後書きが長いなー(ーー;) ゆとでした。

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