クリスマスツリー





寒い。

はぁー と吐く息が白く煙る

見上げれば夜空には月が出ていた。星は都会の光に負けているのかあまり見えない。

ヒカルは視線を前に移した。

もう帰らないとあかりの門限に間に会わなくなってしまう。

まったく、おじさんも俺と出かけているんだから多少多めに見てくれてもいいものを・・・




隣であかりは寒いねーと言いながら手袋ですりすりと頬を暖めている。

早く帰らないとあかりが風邪を引いちゃうかな。

受験追い込みの大切な時期なのだからあまり無理はさせられない。



「帰るか」

「うん、そうだね」

あかりが俺を見上げて微笑んで答える。

そしてあかりが俺の腕に手を絡めてきた。

「あったかいね」

少し照れながら笑って言うあかりがめちゃくちゃ可愛くて・・・




どこにも行かせたくないとそう思った。

本当は大学なんて行ってもらいたくない。ずっと家に、俺の傍にいればいい・・・

大学なんて行く必要ない。そう思うのだけど・・・

あかりは大学に行くことを望んでいる。




大学に行ったらきっとあかりの世界がまた大きくなる。

今までよりももっと多くの人と出会って、多くのことを学んで。

きっとあかりはもっと広く大きな世界に出てしまう。

あかりの前にはまだ幾つもの道があって、あかりはこれからそれを選びながら進んでいく。

俺はもう選び取ってしまった一つの道。

どんどん前へ、広い世界に進んでいくあかり。これから広がる未来を見つめるあかり。

だけど俺にはそれを止めることは出来なくて・・・




「あ!」

あかりがある一方を見つめて声を上げる。

そして俺の腕から手を離し、そちらの方へと軽い足取りでかけていく。

先ほどまで暖かかった腕が一瞬で寒さの中に落とされる。

腕だけでなく、体から全て一気に冷え切った気がする。

あかりはその見つけたものの前で、立ち止まり見上げていた。

決して、遠い距離ではなく、ほんの少しの距離なのに何故かすごく遠く感じる。




そう、あかりには足があって、自分の意思でどこにでも行けて、進んでいけて・・・・

ほら、あいつとは全然違う。

あいつは俺から離れることが出来なかったのに。どんな時でも俺の傍にいたのに。

あかりはどこにでも行けて、あかりにはあかりの世界があって・・・

簡単に俺から離れられる。

不安が心をよぎる。

あかりが俺を好きでいてくれるのは知っているはずなのに・・・

ずっと俺の傍から離れられない、居る筈だと思っていたあいつでさえ居なくなってしまった・・・

あかりはずっとずっと俺の傍にいてくれる?




いつかどこかに行ってしまいそうで・・・・

新しい世界を見つけてしまいそうで・・・・




「ヒカル。ほらすごく綺麗」

あかりがこっちを振り向いて笑った。

明るい幸せそうな綺麗な笑顔。

俺は不安を押し殺し、笑顔で答えてからあかりの方へ足を進める。




「綺麗だね」

隣にたった俺にあかりがそう語りかける。

その視線は目の前の大きなツリーに注がれている。

明るい光で形どられた大きなクリスマスツリー。

そのツリーの光があかりの瞳に映って、あかりの瞳がきらきらと輝いているように見える。

「綺麗だな」

俺はツリーというより、あかりのその姿を見ながらそう答える。

そしてあかりの手をとり握り締めた。

「あんまり、離れるなよ」

そう言う俺にあかりは「ごめんね」と小さく首をすくめて謝罪の言葉を述べた。





わかっている。

俺が言った『離れるな』とあかりが受け止めた『離れるな』ではきっと意味が違う。

違っている。

だから俺はしっかりとあかりの暖かい手を握り締める。

俺から離れられないように。

俺から離れていかないように。





「ヒカル。来年もまた一緒に見ようね」

あかりが俺に瞳を向けてそう言った。笑顔と一緒に。

こいつは俺が不安になったときにどうしていつも欲しい言葉をくれるんだろう?

あかりの笑顔でさっきまでの不安が嘘のように流れていく。

自然に笑顔が浮かんでくる。

そして俺はあかりに笑顔を向ける。

「ほら、帰るぞ。おじさんに怒られちまう」

あかりは、軽やかに笑って頷いた。





今、あかりはここにいる。

これからもずっときっとここにいる。

だって俺がこの手を、今度こそこの暖かい手を離すつもりがないからだ。




今更ですが、クリスマスネタ。 ちょっと年末年始書いてアップしている余裕がありませんでした。 でも、あまり甘くないなー、暗いなー。でも浮かんできちゃったものですから・・・(^_^;) しかも、クリスマスとあまり関係ないような・・・ 一応、イブではありませんよ。イブよりちょっと前のデートかな。 イブには進藤君にはお仕事してもらって、あかりちゃんは金子さんと勉強会してもらおうかな。 塔矢君ももちろん進藤君と一緒のお仕事で。 で、彼女二人でのグチ大会!! 彼氏二人は、冷や汗たらたらしながら仕事というのは如何でしょうか? うーむ、文章にしていつかアップしてみようかな・・・・・


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