「くそー、おじさん・・・・」
進藤が目の前で悔しそうに呟いている。
内容はすでに知っているが、自業自得というものだ。
第一、結婚の申し込みを進藤のご両親とあかりさんのご両親が飲んで騒いでいる最中に
かるーく普通に「あかり頂戴」って言う奴があるか！！
しかも、あかりさんの意志確認もせずにだ！！それぞれのご両親を敵に回すのは当然だろう！
呆れてものも言えないとはこの事だ！！
「相手が俺だぜ！今更礼儀も挨拶もないじゃないか！！」
そういう問題じゃないだろう・・・
「かあさんまで、こんな子にあかりちゃんはあげられません！！って。
あかりはかあさんの子供じゃないのに」
頭を抱える進藤。
なんでも、あかりさんが「私何も言われてないのにー」と泣き出してしまったらしく、
おばさんはそれを見て激怒したらしい。
結局。
「礼儀も挨拶も何もわかっていない子供に大切な娘を渡せるか！まだ早い！！」
と言われてしまったらしい。
しかも、進藤のご両親まで「まだあかりちゃんを頂くなんてとんでもない！
もう少ししっかりしてからでないと申し訳が無い」と反対したそうで。
「かあさん。早くあかり似の孫が欲しいとか言ってたくせに」
と進藤はブツブツ文句を言っているが・・・
進藤やあかりさんのご両親は「まだ」と言っているらしい。認めたも同然じゃないか。
「進藤。どう考えてもご両親達が正しい」
そう言うと、思いっきり悔しそうに睨みつけてきた。
「第一、あかりさんは大学に行くんだ。結婚なんてまだ早いと言われるのは当然だろう」
まったく、何を焦っているのだろうか。
「別に、籍入れてから大学行ってもいいじゃないか・・・」
「大学卒業してからでも問題ないだろう？」
そう言えば、だって・・あいつモテるから・・・・とかぶつぶつと言い始めた。
「何を心配しているんだ？君はもっとあかりさんを信じてあげるべきだ。あかりさんが可哀想だよ」
進藤は、悔しそうに困ったように僕を見返した後、盛大に頭を抱え唸りだした。
「わかってんだよ！わかってるんだけど・・・心配なんだよ！！」
僕はその光景を呆れながら眺めつつ、溜め息をつく。
あかりさんもこれじゃ大変だろうに・・・
まったく・・・、進藤は寂しがりで心配症だ。特にあかりさんに関してはすごく。
「進藤。あかりさんに男が近付くのが嫌だから結婚するというのは結婚の理由じゃない。
あかりさんにも失礼だ」
強く言うと、進藤はうっと一瞬詰まったようだ。
「でも、それだけじゃ無いって！！結婚したらずっと一緒なんだぜ」
毎日、一緒に居られて、一緒に寝て、起きて、ご飯食べて・・・と指折り数えている。
「どうせ、結婚するんだ、少し早くったっていいじゃないか」
と大きな声で文句を言う。
「おじさんとなんて小さい頃から何度もキャッチボールしたり・・・。
挨拶なんて今更だろう？なのにさー」
だから、そう言う事ではないと何度言えば・・・
「しかも、成人式には絶対振袖着せるからって！なんだよそれ！！」
振袖？それは確かに・・・・
「『あかり頂戴！』の何がいけないんだよ！」
あー、また振りだしに戻ったようだ・・・
「いけないに決ってるだろうが！！」
後ろから大きな声が響く。
振り向けば碁会所に来ているお客達が仁王立ちしていた。
「進藤！！彼女のご両親が怒るのは当然だ！！そんな礼儀知らずに娘をやれるか！！」
「百年早いわ！！」
「礼儀を学んで出直してこい！」
「お前にあかりさんは勿体無さすぎる！！」
常連さんたちが進藤を攻め立てる
「はぁー！みんなには関係ないじゃん！」
進藤も立ち上がって言い返しているが・・・
「バカやろう！！お前のような礼儀知らずに結婚なんて早すぎるに決ってるだろう！！
若先生と一緒にいるくせに、なんだその礼儀の無さは！ 少しは若先生を見習え！！」
「なんだよ！！」
頭の上で言い争いが続く。
しかも
「いや、若先生ならいつでも結婚は大丈夫ですよ」
「彼女もしっかりした女性ですし、碁も中々ですし。いや三代目が楽しみですなー」
それを聞いて進藤はますます機嫌が悪くなる。
「なんで塔矢は良くて、俺がダメなんだよ！！」
話は僕のことになってきた。それは、僕だって。
でも・・・・
まだ当分言い争いは続きそうだ。
僕は頭が痛くなり、深く溜め息をついた。
進藤君、和谷くんに脅されて心配症パワーアップです。
暴走してます。
さて、塔矢君が巻き込まれたひかりカップル３年間でした。
と、言ってもあかりちゃんはあまり登場しませんでしたが。
楽しんでいただけていたら幸いです。
長い文章ここまでありがとうございました。
