塔矢君家の食卓事情
◆塔矢アキラ君 16歳の冬◆



「わりぃ。あかり」

前方から手を振って走ってくるのは、幼馴染の進藤ヒカルである。

昨日、いきなり電話で頼まれごとをされたのだ、内容はというと・・・・

「悪いなー。じゃ、行こうぜ」

駅まで迎えに来てくれたのだが、そのまますぐにきびすを返して歩き出す。

「ねえ、本当に私でいいの?」

恐る恐る聞いてみる。だって・・・・

「あー、いいんだって。あかり上手じゃん」

でも・・・・・おばさんの方がいいんじゃないかしら?

しかも、そんな他人の家の・・・

「でも、悪くない?」

不安そうに聞けば、はぁ?っと何言ってるの?という顔をされる。

つまり・・・・

お願い事というのは・・・




「だってさー。昨日の夕食ひどかったんだぜー。

 あいつの両親居ないとき泊まりに行くといつも外食や宅配、

 コンビニばっかりだろ?

 だから、なんか作れるのかって聞いたら、出来るって言うからさー」


幼馴染は愚痴るように話を続ける。

「でさ、あいつが作ったものが・・・。

 茹でしいたけ。茹で豚。キャベツの千切り・インスタント味噌汁・ご飯だぜー。

 料理って言わないよなー、茹でただけじゃん」


ちなみに味付けはテーブルの上に、

めんつゆ・ドレッシング数種類・お醤油・マヨネーズと置いてあったらしい。

「いや、確かに不味くはなかったけどさー」

ぐちぐちと続ける。

「キャベツなんてスライサーで切ってそのままボールでだぜ。
 
 豚も皿にドン!しいたけも皿にドン! 料理じゃねーってあいつに言ったら。

 『栄養は足りてるはずだ』って」

それって無いよなーっとぼやいている。

「そんな訳であかり。飯頼む!!」

ヒカルが拝むように頼んでくる。

つまり、頼まれたのは食事を作って欲しいということで。

現在、塔矢家に向かっているわけである。



それにしても言われた料理の品を頭の中に描いてみる。

「・・・・・」

いや決してダメという訳ではなく、茹で豚なんて立派な料理だけど・・・・

「塔矢君、料理とか得意そうだけど・・・・」

数度しかあったこと無いけど、真面目でしっかりしてそうだった。

「あいつさー、食べることにあんまり興味ないんだよなー」

好ききらいも無いみたいだしなー。



「何作ればいいんだろう?」

料理は嫌いじゃないけれど、胸をはって得意とはとても言えないし。

ヒカルに『頼む!!』って言われて思わず了承してしまったのだ。

昨日、急いで幾つかの料理本を開いてみたのだが・・・・

「俺、カレーがいいや」

ヒカルがニコニコしながら、そう断言した。

「カレーでいいの?」

それなら、何とかなりそうである。

「うん、やっぱさー。合宿らしくていいじゃん。俺、カレー好きだし」

「じゃあ、カレーだけじゃなんだから、サラダとかスープも作るね」

そう言うと、ヒカルは嬉しそうに笑った。

「やりぃー!!やっぱ持つべき物は、料理上手の幼馴染だよなー」

と言いながら。

幼馴染かー、とそう思いあかりはヒカルに気づかれないように小さく苦笑した。




その後、ヒカルと必要なものを買い物して帰り、あかりは塔矢家の台所に一人立っていた。

ぐつぐつとどんどん美味しそうに煮込まれていくカレーを眺めながらあかりは深くため息をつく。

「やっぱり、唯の幼馴染なのかなー」




その頃、進藤ヒカルは塔矢アキラと何度目かの対局の検討を終えていた。

ふと気がつけば美味しそうなカレーの匂いが漂ってくる。

今日はまともな夕飯にありつけそうである。

「お、美味そうな匂いしてきたじゃん!」

うきうきと鼻を鳴らす。彼の幼馴染は料理には定評がある。

「藤崎さんに悪かったんじゃないのかい?」

少々申し訳なさそうに塔矢が言ったあと、やっぱり手伝った方がと台所の方を心配する。

「大丈夫だって」

そうか?と言いながら、やはり心配そうな塔矢。

「しかし、君の知合いにあんな子がいたなんて。すごいじゃないか料理が出来るなんて!」

そう感心する。

「塔矢は会ったことあっただろ?中学の時とか」

「こんなに親しいとは知らなかったよ」

つくづく感心しているようで、台所をちょくちょく気にしている。

「塔矢」

ヒカルの声のトーンが一つ下がる。

「言っとくけど、あかりは俺の幼馴染だからな!俺の!!」




進藤ヒカルが自分に対し、こんな所有権を主張しているとは知らないあかりは、

完成間近のカレーをぐるぐるとかき混ぜながら、

本日幾度目かの深い深いため息をついていた。





ちょっと、けったいな内容ですが、浮かんできちゃったんですよねー。 しかもシリーズで・・・(^_^;) つくづく私の頭の中って・・・・ ため息をつきつつ、まあ書いていて自分が楽しいんだからいいかーと、 自分を慰めつつ。 ま、良しといたしますか! ちなみにこれから出てくる手抜き料理の数々は私のレパートリーだったりして(^_^;)


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