「わりぃ。あかり」
前方から手を振って走ってくるのは、幼馴染の進藤ヒカルである。
昨日、いきなり電話で頼まれごとをされたのだ、内容はというと・・・・
「悪いなー。じゃ、行こうぜ」
駅まで迎えに来てくれたのだが、そのまますぐにきびすを返して歩き出す。
「ねえ、本当に私でいいの?」
恐る恐る聞いてみる。だって・・・・
「あー、いいんだって。あかり上手じゃん」
でも・・・・・おばさんの方がいいんじゃないかしら?
しかも、そんな他人の家の・・・
「でも、悪くない?」
不安そうに聞けば、はぁ?っと何言ってるの?という顔をされる。
つまり・・・・
お願い事というのは・・・
「だってさー。昨日の夕食ひどかったんだぜー。
あいつの両親居ないとき泊まりに行くといつも外食や宅配、
コンビニばっかりだろ?
だから、なんか作れるのかって聞いたら、出来るって言うからさー」
幼馴染は愚痴るように話を続ける。
「でさ、あいつが作ったものが・・・。
茹でしいたけ。茹で豚。キャベツの千切り・インスタント味噌汁・ご飯だぜー。
料理って言わないよなー、茹でただけじゃん」
ちなみに味付けはテーブルの上に、
めんつゆ・ドレッシング数種類・お醤油・マヨネーズと置いてあったらしい。
「いや、確かに不味くはなかったけどさー」
ぐちぐちと続ける。
「キャベツなんてスライサーで切ってそのままボールでだぜ。
豚も皿にドン!しいたけも皿にドン! 料理じゃねーってあいつに言ったら。
『栄養は足りてるはずだ』って」
それって無いよなーっとぼやいている。
「そんな訳であかり。飯頼む!!」
ヒカルが拝むように頼んでくる。
つまり、頼まれたのは食事を作って欲しいということで。
現在、塔矢家に向かっているわけである。
それにしても言われた料理の品を頭の中に描いてみる。
「・・・・・」
いや決してダメという訳ではなく、茹で豚なんて立派な料理だけど・・・・
「塔矢君、料理とか得意そうだけど・・・・」
数度しかあったこと無いけど、真面目でしっかりしてそうだった。
「あいつさー、食べることにあんまり興味ないんだよなー」
好ききらいも無いみたいだしなー。
「何作ればいいんだろう?」
料理は嫌いじゃないけれど、胸をはって得意とはとても言えないし。
ヒカルに『頼む!!』って言われて思わず了承してしまったのだ。
昨日、急いで幾つかの料理本を開いてみたのだが・・・・
「俺、カレーがいいや」
ヒカルがニコニコしながら、そう断言した。
「カレーでいいの?」
それなら、何とかなりそうである。
「うん、やっぱさー。合宿らしくていいじゃん。俺、カレー好きだし」
「じゃあ、カレーだけじゃなんだから、サラダとかスープも作るね」
そう言うと、ヒカルは嬉しそうに笑った。
「やりぃー!!やっぱ持つべき物は、料理上手の幼馴染だよなー」
と言いながら。
幼馴染かー、とそう思いあかりはヒカルに気づかれないように小さく苦笑した。
その後、ヒカルと必要なものを買い物して帰り、あかりは塔矢家の台所に一人立っていた。
ぐつぐつとどんどん美味しそうに煮込まれていくカレーを眺めながらあかりは深くため息をつく。
「やっぱり、唯の幼馴染なのかなー」
その頃、進藤ヒカルは塔矢アキラと何度目かの対局の検討を終えていた。
ふと気がつけば美味しそうなカレーの匂いが漂ってくる。
今日はまともな夕飯にありつけそうである。
「お、美味そうな匂いしてきたじゃん!」
うきうきと鼻を鳴らす。彼の幼馴染は料理には定評がある。
「藤崎さんに悪かったんじゃないのかい?」
少々申し訳なさそうに塔矢が言ったあと、やっぱり手伝った方がと台所の方を心配する。
「大丈夫だって」
そうか?と言いながら、やはり心配そうな塔矢。
「しかし、君の知合いにあんな子がいたなんて。すごいじゃないか料理が出来るなんて!」
そう感心する。
「塔矢は会ったことあっただろ?中学の時とか」
「こんなに親しいとは知らなかったよ」
つくづく感心しているようで、台所をちょくちょく気にしている。
「塔矢」
ヒカルの声のトーンが一つ下がる。
「言っとくけど、あかりは俺の幼馴染だからな!俺の!!」
進藤ヒカルが自分に対し、こんな所有権を主張しているとは知らないあかりは、
完成間近のカレーをぐるぐるとかき混ぜながら、
本日幾度目かの深い深いため息をついていた。
ちょっと、けったいな内容ですが、浮かんできちゃったんですよねー。
しかもシリーズで・・・(^_^;)
つくづく私の頭の中って・・・・
ため息をつきつつ、まあ書いていて自分が楽しいんだからいいかーと、
自分を慰めつつ。
ま、良しといたしますか!
ちなみにこれから出てくる手抜き料理の数々は私のレパートリーだったりして(^_^;)