「ほおー、やっとくっついた訳か・・・」
緒方十段が感心したように呟いた。
彼の目の前には進藤ヒカル棋士がいる訳で・・・・
「なんだよ・・・」
微かに赤くなりながら、視線をそらして答える。
「で、なんだ。まともな料理が食べたかった訳か？
あかり君の料理を食べたかったのか？それともあかり君に会いたかった訳か？」
にやにやと楽しそうに問い掛ける
「で、どうなんだ？進藤？」
隣では、くすくすと笑いながら「あまりからかっては可哀想ですよ」なんて芦原が言っているが。
「な！どうって・・・」
真っ赤になって目を泳がせる進藤。面白いじゃないか・・・
「ま、まともな飯が食べたかったんだよ！！」
ガタン！！とテーブルを叩きつつ答える。
「だって、昨日の塔矢が作ったもんなんて！！」
指折り数えながら料理を上げていく。
茹でたてのうどんに生卵と鰹節・ちぎったレタス・たまねぎをレンジでチンしたもの。
「うどん茹でて、玉ねぎチンしただけじゃん！！」
ちなみに味付けで めんつゆ・醤油・青じそドレッシング・マヨネーズとあったらしい
「確かに意外とうまかったけど。料理じゃねー！！」
勢いよくそう答えた時に、塔矢がいくつかの料理を運んできた。
「進藤。そういうことは料理が出来るようになってから言ってもらおうか」
ジロリと睨まれる。
「うっ！レタスちぎったぞ！！」
「それこそ料理じゃないだろう！！」
「俺はいいんだよ！！あかりが出来んだから！！！」
そう大声で反論したのだが。
「へー、ヒカル全然やる気ないんだー」
冷たーい声が響いた。塔矢の後ろにあかりが居た。
「あ、あかり？」
あ、もしかして不味かった？
「テーブルを片付けて拭いてってお願いしてたのに・・・」
テーブルの上にはまだ物が少し散乱していた。
「あ、わりぃ。すぐに片すから・・」
急いで下ろしてテーブルを台ふきんで拭く。
そこに、あかりの手料理が次々と並んでいく。
鳥の照り焼き（チンゲン菜添え）・マーボ茄子・豆腐サラダ・おひたし・トマト・ご飯。
「あかり、すごくうまそうじゃん！！」
嬉々としてヒカルが言うと、あかりは嬉しそうに微笑んだ。
「料理も美味いし、可愛らしいし、性格もいい。進藤にはもったいないなー。
どうだ、今からでもアキラに乗り換えないか？」
食事が一段落したあと、緒方がそう切り出した。
「な！！」
「え？」
「はぁ？」
ヒカル・あかり・塔矢はびっくりして緒方を見つめ返す。
「断然、アキラの方がお勧めだぞ」
にやーと笑う。
「な、何言ってんだよ！！あかりは俺の！！」
猛然と抗議するヒカルを緒方は無視してあかりに話を続ける。
「なんと言っても、アキラは素直で真面目だからなー。
嘘はつけないし、隠し事もしないぞ。どうだ、アキラにしとかないか？」
「な、なんだよ！俺が嘘つきで隠し事するみたいじゃないか！！」
「なんだ、違うのか？」
顔は笑っていながら、瞳だけは真剣にヒカルを見つめる。
塔矢も苦笑をやめて、無言でヒカルを見た。
「・・・・・・」
話せない事がある・・・・
困ったような、悔しそうな顔をして黙るヒカル。
「でも、ヒカルはヒカルですから」
一瞬の重苦しい空気の中、あかりがにこやかに笑って、軽やかに答える。
「じゃあ、私。片付けてきますね」
そう言って、食べ終わった食器を持って台所へと向かう。
部屋には男性陣が残されたわけだが・・
「進藤」
塔矢が真面目な面持ちをしてヒカルに向き直った。
「大切にしろよ」
と、静かに告げる。
先ほどのあかりの笑顔で顔が緩んでいたヒカルは、
「わかってるよ！」
と照れ隠しのように乱暴に答えてから
「あかり！手伝う！！」
と言って、あかりの後を追いかけていった。
もったいない。
そう心でつくづく思いながら、緒方はタバコに火をつけた。
結局は、どうあっても進藤がいいらしい。
台所からは楽しそうな笑い声が聞えてくるし、
塔矢はと言えば、少々羨ましそうに台所の方を眺めている。
まったく、もったいないな。
でも・・・
くすりと微かに笑いが漏れる。
面白い・・・
あかり君の話を振ると赤く動揺する進藤。
それにこの頃、棋院でアキラと進藤に関するおかしな噂が囁かれ始めている。
台所から聞える笑い声、微かにため息をつくアキラ。
面白いことになりそうだ・・・
後で、芦原にきちんと口止めしておこう、
そう思いながら緒方はとなりでずっと穏やかな微笑みを浮かべている後輩に目を移す。
この日、塔矢家の一室に不適に笑みを浮かべる緒方十段の姿があったが、
ヒカルとアキラの背中に寒気が走ったかどうかは定かではない・・・・
緒方さんの質問の答えはもちろん全部です(^O^)
