夢だ・・・ -3- 



俺はただあかりにこうして触れているだけでよかったのだけど・・・




「ヒ、ヒカル!ダメだからね」

慌てた声が頭上から降りてくる。

「?」

ゆっくりと見上げると、あかりは顔を赤く染めて焦った顔で俺を見下ろしていた。

「ダメだからね。おばさんだって下にいるし・・・」

そりゃ、当然判ってるし・・・

だから何だ?

「私のお母さんだって、もう少ししたら手伝いにくるし・・・」

あかり、もしかして・・・

「お父さんだって夕方にはくるんだし・・・・」

焦りながらもおずおずと言葉を続ける。

「ダメだよ・・」






こいつ・・・

あかりのその焦った様子に可笑しさが込み上げる。

確かに俺はベットにいるけど。あかりを抱きしめているけど。

最低限の理性ぐらいあるのだけどな。

さすがに、俺を起こしに来たあかりがいつまでも戻らないのでは不味すぎる。

「ふーん、あかり何考えてる?」

にやにや笑いながらあかりを見上げる。

「俺、そのつもり無かったけど。へー、あかりって結構・・・」

かぁぁーとあかりが耳まで赤く染まる。

「ち、違っ! だってヒカルが!!」

焦ったあかりがすごく可愛いから。

「俺が何?」

腕はあかりの体に回したまま、彼女に問いかける。

「ヒカルがだって・・・」

恥ずかしそうに視線をそらす。

その様子が本当に可愛らしい。

俺のあかりだ。






「そうかー。あかりがそのつもりならご希望にこたえちゃおうかなー♪」

俺が楽しそうに笑いながら言うと、あかりはびっくりして視線を俺に戻す。

「え?な!きゃぁ!!」

次の瞬間にはあかりは俺のベットの上に横たわり、今度は俺があかりを見下ろす。

驚いているあかりに俺は笑顔を向けた。

「あかりは何がご希望かなー♪」

あかりは明らかにまずい!!という顔をしている。

まあ、俺だってわかっているけど。

もう少しだけ・・・







「ヒカル、ダメだよ・・・」

そう言うあかりの唇をゆっくりとふさぐ。





柔らかく、暖かい、この存在。

俺の・・・

絶対に手放さない。







ゆっくりと離れた後、今度は強く抱きしめる。

「ヒカル?」

戸惑ったあかりの声。

「ごめん、もう少しだけ・・・」

脳裏に浮かぶ、あかりの後姿。

離れた手、違う道。

知らない誰かと言葉を交わし、前へと歩む姿。

夢の残像・・・・・






強く強く腕の中の存在を抱きしめる。

その暖かさで心を冷やす夢の残像を溶かしだすように。






「ヒカル?どうかしたの?」

あかりが心配そうに言葉をかける。

ただの夢で心配をかけるつもりはない。

夢ひとつで揺さぶられるような情けない姿を知られたくもない。

だから・・・・






「んー。なんか残念だなーと」

「え?」

「母さんが下にいなきゃなー。あかりもその気で絶好のチャンス?」

少し体を離して、にっこりと笑って言えば案の定あかりは真っ赤になって。

「な、バカ!!もう離して!」

俺を押しのけて、ベットから逃げるように降りる。

「あーあ、残念」

からかい半分、本音半分。

あかりはキッと俺を睨みつける。

なんか、そんな顔もかわいらしく映るんですけど、あかりさん。

本気で残念で、思わず母さんがいてもいいかなーなんて。




でも、これ以上怒らすのはまずいから。

「ごめん。反省してます」

ぺこりと頭を下げる。

「ホントに?」

そう言うあかりにコクコクと頷く。

「ホントです。もう大人しく起きます」

神妙に答えてみる。

「じゃあ、早く着替えて降りてきてね。今日は私がお昼ご飯作ったんだよ」

あかりは機嫌を直したらしく、にこにこと笑う。

「へー、そりゃ楽しみ」

だから俺も自然にっこりと笑う。

「早くね。でないと食べちゃうからね」

「了解」








あかりは笑顔の残像を残して、部屋を出て行く。

階段を降りていく軽やかな足音が響く。

俺は、その音を聞きながらベットからゆっくりと降り立つ。

ふと手を見れば、まだそこにはあかりの温もりが微かに残っている。

その手を静かに見下ろす。









朝起きたとき、夢の中での不安と孤独が俺をまだ支配していた。

それが、情けなくて、悔しくて。

だけどあかりの顔を見た瞬間、その不安も孤独もすべて忘れていた。







朝、目が覚めて一番に見る顔があかりだったら・・・

一番に聞く声があかりだったら・・・

俺はあんな夢に二度と脅えることはないのだろう。







もしも、一日の最後に見る顔があかりだったら・・・

眠りにつく直前に聞く声があかりだったら・・・

俺はもう二度とあんな夢なんて見ないのかもしれない。







離れた手が、あかりの後ろ姿が脳裏に浮かぶ。






「絶対に手放すものか・・」

小さくだけど強い意志を込めて呟く。






だからそのために・・・



もうすでにあかりの温もりが消え去ってしまっている手を今度はゆっくりと握り締める。










そして俺は部屋の中を素早く移動する。

またその手で温もりに触れるために。















そして、その日の夜。

進藤家の居間で、とある騒動が起こることになる。






ふむ。ちょっと暗くなりましたね。 一応、このお話は結構前から考えていたもので、やっと書き上げました。 というか、順番的に前の方には書けませんでした。 でも、絶対書くと決めていた作品です。 ヒカル君の心の影? やっぱり子供の頃に佐為が誰よりも近くに存在していて、そして急に失った。 という過去はヒカルに多大な影響を与えているんじゃないかと。 一応、他の作品の幾つかにもヒカルの不安定さを多少出してみたつもりです。 それにやはり勝負の世界というのはプレッシャー等がいろいろあるのでは・・・と。 そんな訳で、こんな夢。 なお、過去や生い立ちに何かがあり心に暗い傷がある少年というのが、 私のつぼだったりします(^_^;)  あー、それと今回はヒカル君がちょっとエロっぽい♪ さて、私の「ひかりシリーズ」も大詰めです。 ところで、「とある騒動」が何かわかりますか? いままでの話の中にちょこっと内容が出てきています。 その話も書かなくては・・・ それでは、ゆとでした。

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