サ ヴ ァ イ ヴ
◇ う わ さ ◇


「カオル!!どうしてくれるんだ!!」

船の中だけなら我慢も出来たのだが、こんな一般誌で全宇宙に配信されたかと思うと・・・

「こんな根も葉もないことを並べ立てられ!!名誉毀損だ!!」

怒りに任せて、怒鳴りつけたのだが・・・

記事を読んでいたカオルがゆっくりと顔を上げる。

見つめてくる漆黒の双眸。

「・・・・・」

やばい!と気がついたのはこのときだった。

「メノリ。俺が悪いのか?」

冷ややかに告げてくるその言葉。

背中に汗が流れるのを感じた。

「・・・いや。・・・そのだな」

まっすぐと見つめてくる深い瞳。

「悪かった。つい気が高ぶってしまったようだ。もちろんお前が悪いわけではない。

そのだな、お前にも知らせておいた方がいいと思ってだな」

は、は、は、と空虚な笑いをする。

カオルは黙ったままだ。

「ル、ルナには私からも連絡しておこう。お互いこんな記事を書かれるとは参ったことだな」

それじゃあ、また。と通信を切る。

大きなため息をついた直後、もう一度別な場所に通信をしたのは言うまでもない。



「あれ、メノリとの通信終ったのか?」

ゆっくり元居た席に向かって歩く。目の前で無表情な青年が画面を見つめていた。

「他の記事も見てみたけど、けっこうあったぜ。メノリも政界じゃ結構有名人だからなー。

政界のプリンセスとか言われてるんだぞ」

そこら辺の事情を恐らくはこの目の前の青年は知らない。

一度思いっきり笑ったあと、一応違う端末で記事をチェックしたら、出るわ出るわ・・

生還した直後の映像だのと比べ合わせて、説明までされていた。

「しかし、俺が居るのに何でお前となんだろうな?

やっぱ俺ほどの大物になると、そうはゴシップの対象にならないのかな?」

一応、俺と並ぶほどの美形と思っている数少ない相手をマジマジと眺める。

確かに、メノリと並ぶと知的な美男美女でお似合いだったが。

「まあ、メノリほどの美人との噂だし、まあいいんじゃないか?うらやましいよ」

もちろん、事実無根ということは良くわかっている。

だからこそ、ニヤニヤ笑ってからかえるのだ。が・・・・




「ほう、羨ましいならいつでも代わるが」

画面を見つめていた瞳が真っ直ぐに僕に向けられた。

「嬉しそうに見えるか?」

すーとその瞳が冷ややかに輝く。口元には冷笑が

まずい・・・・とやっと気がついた。

「じょ、冗談だよ、冗談。いや、ホント災難だったな。困るよなー、マスコミってさ」

プライバシーを何だと思っているんだよなー。それに嘘を平気で記事にするしなー。

「大丈夫だって。すぐ収まるさ。僕も否定しておいてやるからさ」

は、は、はと乾いた笑いを漏らす。

そそくさ、と通信の終った機械を荷物にしまう。

「もし僕だったらって、そしてシャアラがこれを見たらって思うとホント嫌になるよ。同情するって」

漆黒の髪と漆黒の双眸が無表情に僕に向けられる。

「そうだ!ルナには僕からちゃーんと説明しとくよ、僕も一緒の船だったって」

もちろん、ルナはカオルのこと信じているだろうから必要ないかもしれないけどさ、

とそう言いながら荷物を持ち上げる。

「そろそろ僕行くから。撮影に遅れたらまずいしさ。じゃあ、カオル元気でな」

にこにこと笑顔を作って、そそくさとその場所を立ち去る。

「こ、怖かったー」

そうため息をつきながら嘆いたのは言うまでもない。






画面の中でその黒い髪の青年はいつものように私に対して優しい微笑みを向けてくれている。

「この航海が終れば休暇が取れるからそちらに行く」と連絡してきてくれた。

お互いの仕事の都合上、なかなか会うことの出来ない人。

彼に笑顔を返した後、戸惑ったように質問する。

「ねえ、カオル。記事のことなんだけど・・・」

シャアラが面白いわよとメールで送ってきてくれた。

もちろん信じるはずなどないけど。

目の前の彼はとたん苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

「事実無根だ。ハワードが乗っていたからな、記者も乗っていたらしい」

「もちろん、違うって解っているわよ。でも・・・」

カオルに限って有り得ない。ましてや相手がメノリなら余計だった。

メノリの性格を考えれば、友人の彼氏となんてそれこそ有り得ない。

「でも、なんだ?」

不安そうな顔を彼が向ける。不安そうな顔をする必要はないけど・・・

「あのね、メノリとハワードから立て続けに連絡がきて・・・・」

2人とも非常に焦った様子だった。



『いいか、ルナ。この記事はでたらめだ!私は被害者だ!!被害者なんだ!』

とメノリがこのごろでは珍しく声を荒立てていた。

ハワードも

『ゴシップを信じるなよ、有り得ないからな。僕も一緒だった、証明するよ。

2人は何でもないんだ!!いいな、ルナ。僕は説明したからな。説明したぞ!!』

と血相を変えていた。




「ねえ、カオル。2人に何を言ったの?」

2人が取り乱して連絡してきた。どう考えても・・・

目の前の青年を見つめる。

彼は少し考え込んだようだが、微かに微笑んだ。

「別に俺は何も言っていない。彼らが気を利かせたんだろう」

カオルは、私にはとても優しい。それは随分前からずっと変らずに。

そして、私にだけは特別な笑顔をくれる。

「本当に?」

「ああ」

笑顔でそう答えているけど。

『バカ!カオルを怒らせると怖いんだ!!』ハワードが昔そんなことを言っていた。

無言の圧力が・・・・そんなことを呟いていたような。

私には良くわからない。

「そろそろ、仕事に戻らなくてはならない。ルナ、また連絡する」

彼は優しい笑顔でそう告げる。

「ええ、会えるのを楽しみにしているわ」

そして私も笑顔で答えた。

カオルファンの人々が見れば恐らく唖然としてしまうほどの柔らかい優しい笑顔に向けて。




最後の最後にやっとルナさん登場です。 カオル君はやっぱりルナにだけ特別な笑顔を向けているといいな、と。 ルナに対してと、他の人とではすごく差があるのではないかと。 いやそうに違いない!! それと、カオル君の怒った視線は怖いだろうなーと思ったわけです。 全然甘い話ではありませんが、如何でしたでしょうか? ここまで読んで頂いてありがとうございました。 なお、私なりのハワードとシャアラの婚約までのストーリがあります。 いつか文章にできたらいいかな。 こっちの方が甘く切ない系になるかな?たぶん。

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