進藤君家の家庭事情-5-


「あーあ、参ったなー」

今日も僕は小さくため息をつく。

原因は目の前の光景。



「ヒカル、いってらっしゃい」

母が笑顔で父に荷物を渡している。父が嬉しそうに荷物を受け取り、「いってきます」といいながら母の頬にキスを落とす。

ほのぼの、ほのぼの、進藤家の玄関先や門で繰り広げられるいつもの朝の光景。

まったく、ここは日本なのに。

しかも玄関や門でやらないでくれよ。出かけられないじゃないか・・・




姉や兄たちの話では、以前は父は堂々と普通にキスをしていたらしい。

でも、さすがに近所から苦情がきたらしく、姉たちの必死の説得の結果、門のところでは頬や額へのキスでしぶしぶ納得したらしい。

「夫が妻にキスして何が悪い!」というのが父の言い分だったらしいけど。

とにかく僕は現在、その二人の光景を後ろから眺める羽目になってしまったわけで・・・

『ばかねー、どうしてお父さんより早く出かけないのよ!』一番上の姉ならきっとそう言うだろう。

『二人は無視してさっさと出かけなさい』二番目の姉はそう言うかもしれない。長男なら無言で遅刻するだろう。

だけど僕は遅刻する覚悟も、この脇を通り抜けるのもできず、結局「失敗したなー」と後ろでため息をつくことになる。




「何だ、融。うらやましいか?」

ふと父が僕に気がついて、いたずらっぽく声をかけてきた。

ご丁寧に母を抱き寄せながら。

「ちょ、ちょっとヒカル」

母は慌てて抗議するけど、母のこの手の抗議が通ることは少ない。

「あのね、僕をいくつだと思っているんだよ」

まったく高校生どころか孫までいるくせに、年を考えろよ!

「融もテストの時とかあかりにキスしてもらえばいいのに、効果抜群だぞ」

あ、でも唇は駄目だぞ、なんてふざけたことを父が言う。

「あのね、だから僕は高校生なの。母親のキスなんて嬉しくないの!」

「え、そうなの・・・・」

なんか母が父の腕の中で寂しそうにつぶやく。

お、お母さん・・・・。そんな寂しそうな目をしないでよ・・・


「とにかく!遅刻しちゃうから僕もう行くから」

そういって、二人の脇をすり抜けようとしたら、父に「待てよ」と呼び止められた。

「じゃ、あかり。行ってくるから」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

心配そうに母が微笑む。

「大丈夫だって、絶対勝つさ」

父はすばやく母の唇にキスをひとつ落とした。

「ま、今日は特別な」

くすりと笑って父はそう言っていた。

結局いちゃいちゃするんだこの二人は。

僕は諦めがてら頭を抱えた。



「融。お前背が伸びたなー」

隣を歩く父が僕みてふと気がついたように声をかけてくる。

「そりゃ、成長期だし」

「抜かされるのも、すぐかなー」

どこか寂しそうな、でも嬉しそうな瞳で僕を見つめてくる。

そして、

「お、お父さん。やめてよ!」

頭を撫でるなー!!しかも道端で。


父は母や僕たち子供に触れるのが好きなんだと思う。

特に、僕の場合は母譲りのこのやわらかい髪に触れるのが好きらしい。

ちなみに僕は人によっては父似と言われたり、母似と言われたり。

だけど・・

「僕はだからもう高校生なんだってば」

父の手を振り払えば、父はひどく傷ついた顔をした。

「なんだ、けちだなー。昔は自慢のお父さんとか言って、俺の傍から離れなかったのに」

いつの話だよ・・・・。

たしかに、幼いころは父の周りに纏わりついていた記憶がある。

「可愛かったよなー、融」

遠くを見つめる父。

「あのね、お父さん・・・」

だから僕はもうあの頃じゃなくて・・・



そんな話をしていたら、駅にたどり着いた。

改札を抜ければ父と僕とは別々の方向に行く。

だから僕は父の目の前に立って、父を見つめる。

「お父さん。頑張ってよね、一応今でも僕の自慢の父親なんだから」

面と向かって言うのは恥ずかしいけど、今日は特別の日だから。

父はちょっとびっくりした顔をしたが、嬉しそうに笑う。

「任せておけって、まだお前の自慢の父親ってのは返上したくないからな」

そして、行ってくるよと軽やかに笑って、父は歩いて行った。




本因坊本戦に向かって。



さて、この作品の進藤夫婦のイメージは。 『八神夫婦とミッターマイヤー夫妻』 何それ?と思う方も多いだろうなー。全然違うよ!まだベタベタ度と甘さが足りないぞ!! と思う方もいるかも。 でも、まあイメージで・・・(^_^;) ゆと

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