進藤にか・の・じょぉー!?
私は聞いた瞬間思わず目を向いた!
だって、だってよ。あのお子様碁馬鹿に彼女!!
確かに進藤はここ数年で外見はけっこうかっこ良くなったと思う。
実は女の子から結構人気でファンもいるって聞いていたわ。
でも、性格はただの、いえ、酷い碁バカなのに・・・
碁に一直線でとにかく碁が好きで。だからこそ、あんなにも早く強くなっていったんだと思う。進藤も塔矢君も。
あの二人にバカみたいなうわさがあるのも知っていたけど、当然信じていなかった。
ただ単に二人は碁しか見えていないのだろうって。
大体!!かっこいい男二人が男同士でくっつくなんて、勿体ないじゃない!!
と、とにかく。彼ら二人はまだ碁に夢中で異性に目を向けるだけの余裕がないだけだと思っていた。
なのに!!彼女!?
しかも可愛らしい子らしいじゃない。
むくむくと興味がわいてくる。
だから・・・
「し・ん・ど・おー♪」
廊下で偶然見つけた進藤に笑顔で近づいた。
そして・・・
うっそー!!
彼女を見た最初の感想がそれ。
何で進藤なの?いいの進藤で?
勿体ないわ、勿体無さすぎるわ。
とにかくそれくらい可愛らしい・・
「始めまして、藤崎あかりです」
進藤と私を見比べて、ちょっと不安気な光を瞳に浮かべた後、それでも笑顔を作って少し緊張ぎみに彼女は挨拶してくれた。
「あの、お話は良く聞いています。女性なのに凄くいい碁を打つんだって。見習えって言われてて、会えて嬉しいです」
凄くいい碁?あら、進藤良い事言ってくれていたんだ。
「そんな、私なんてまだまだよ。それよりあかりちゃんって碁を打つの?」
私はあかりちゃんに聞いたのに。
「一応打てるんだけどさ。すごいヘボなんだよ。俺とほとんど同じ時期に始めたくせにさ。
しかも、俺が教えてるんだぜ。もう少し強くなったっていいじゃん、なのにさー」
進藤があかりちゃんの脇から答えてきた。
しかも、内容は文句なのにすっごく嬉しそうに。
そしてあかりちゃんはその進藤の隣でちょっと怒ったようにムスーとして「ひどーい!そこまで言わなくてもいいじゃない」と
進藤を見上げながら文句を言っている。そして進藤はそんな彼女を幸せそうな眼差しで見下ろしながら、
にやっと笑って「事実だし」と答え、彼女は「ヒカルの教え方が下手なの!」と怒って言い返し、そして進藤が・・・・・・
何?これ?
目の前で、繰り広げられる幸せそうなじゃれあい・・・・
怒ったあかりちゃんも可愛らしくて仕方ないらしい。
ところで、いつまで続くわけ?これ・・・
「あー、あの。だったら今度私が教えましょうか?」
とにかく、二人の世界からもどってきてほしくて声をかける。
「ホントですか!」
「いや、いいよ」
無事に二人から同時に返事が帰ってきたけど、内容はまったくの反対。
「ぜひ、お願いします!」
あかりちゃんは嬉しそうに私に笑顔を向けたけど・・
「いや、奈瀬に教えてもらうには下手すぎるから・・」
と、その彼氏は少々気に入らないご様子。
だけど・・
「大丈夫、進藤の邪魔はしないわよ。どうせいろいろと忙しいんでしょ。
進藤が忙しくてあかりちゃんの相手が出来ないときとか、私が教えてあげるわ」
そういうと、進藤は渋々それならば・・と納得した様子だった。
大体、碁の話が通じる同年代の女の子なんて貴重だわ。しかもこんなに可愛らしくて性格だってよさそうだし。
それからしばらく女二人で楽しく談笑していたら、ふと気がついた。
進藤が私たちの様子(9割あかりちゃん)をやさしい眼差しで嬉しそうに眺めているのを・・・
進藤ってば、本当にベタ惚れなのね。
凄いわ、あかりちゃん。進藤のあんな顔を見られるなんて思ったことも無かった。
「奈瀬、あかりと仲良くしてやってよ。よろしくな」
進藤と目が合ったら、そう言われた。
それも、私にまで優しい笑顔を向けて嬉しそうに。
本当に今日は凄いものばかり見ている気がする。進藤がちゃんと彼氏をしているなんて・・・
実は、進藤の彼女にあったら聞こうと思っていたことがある。
進藤は、和谷の部屋での研究会とかにほとんど欠席したことがない。
仕事ならともかく、「用事があるから」なんてこと、それこそ聞いたことが無い。
棋院の帰りにいきなり今日の手合いの検討をしよう!となったときも、断ったことがほとんど無い。
そればかりか、よく塔矢君の碁会所や家で碁を打ったりしているらしいし、家でも凄く勉強してきているみたいだし・・・
二人はいつ会っているんだろう?
で、問いただしてみれば・・・
はい?ドタキャン・遅刻はいつものこと?
約束もしてないのに急に呼び出されたり、逆に全然会えなかったり、会っても碁ばかりで放って置かれたり・・・
塔矢君と碁を打っている間、ご飯作ってる?
私がだんだん不穏な表情になってきたからか、あかりちゃんが慌てて「映画に行ったりとかもしてますよ」フォローしたけど、でも・・・・
本気でこいつでいい訳?あかりちゃんなら絶対もっといい男見つけられるのに・・
とか思っちゃうんだけど、目の前のあかりちゃんは私にとっては「何!!」と思えることも嬉しそうに話しているし、
「ヒカルは碁を頑張ってるから・・」なんて幸せそうに言うし・・・。まあ結局、進藤で良いのでしょうけど・・
でもなー。
私がちょっと考え込んでいる間にイスミ君が遅れてやってきた。まあ、彼も「碁の検討が・・」とかで遅れたわけで。
進藤がイスミ君に「俺の彼女」とかって嬉しそうに自慢げに紹介しているのを横目にちょっと考えついた。
「あかりちゃん大学受験終わったら、一緒に遊ぼうね」
「はい」
あかりちゃんは笑顔で返事をしてくれた。やっぱり可愛い!
「合コンに誘うから、一緒に行こうね♪」
あかりちゃんの手をとり、にっこりと笑う。
「はい?」
あかりちゃんはポカンと一瞬何を言われたか理解できないようだったけど、あかりちゃんの隣の男は・・・
「な、何言ってんだよ!!」
顔を真っ赤に染めて、猛然と抗議の怒鳴り声を上げてきた。
とりあえず、その男は無視!!
「ダメよ、あかりちゃん。進藤と幼馴染でずーと進藤しか見てなかったんでしょう?他にも一杯いい男はいるわよー。」
「な、奈瀬!!」
「お、おい。止めろって」
男性陣から非難の声が聞こえる。
「こんなねー約束は破る、遅刻はする、なかなか会えなくて、会ってもほっとかれて、しかも結局碁が大事!みたいな男なんて。
もっとやさしい男なんて一杯いるんだからね。」
「あ、あの・・・・」
あかりちゃんは戸惑った顔している。
「それにあかりちゃんてば、すっごく進藤のこと甘やかせているみたいだし・・・。もっと外を見てみなくっちゃ、ね」
横目にしっかりと進藤の焦った顔とイスミ君の青くなった顔を見ながら、私は満面の笑顔でにっこりとあかりちゃんに笑いかけた。
「奈瀬!!てめー、いい加減にしろよ!!」
とうとう切れた進藤があかりちゃんを私の前から引き剥がし、自分の腕の中に抱え込む。
「あらー、だって進藤ってば。あかりちゃんを結構ほっといてるみたいだし・・・」
「そんなこと無い!!」
「遅刻・ドタキャンが普通みたいだし」
「そ、それは・・・」
「あかりちゃんが可哀想だもん」
「そ、そんなこと無いです!!」
反論を述べたのはあかりちゃん。
「あ、あの。確かにあまりデートは出来ないけど、会ったときは凄くやさしくしてくれるし。
それに忙しいのにちょっとの時間でも会いたいからって会いに来てくれたりとか、連絡くれたりとか・・・そういうの凄く嬉しいし。
ヒカルが碁を頑張っているを応援するのは私が好きなんです!だから、ヒカルがいいんです!!」
しっかりと進藤に抱き込まれてる状態から、赤くなりながらも必死で言ってきた。
あら、あかりちゃんも進藤にベタ惚れなのね。可愛い・・・
そんな感想を持ったのは私だけではなく、彼氏の方もそうだったらしく。
「・・・・あかり」
なんて言って嬉しそうにさらに強く抱きしめているけど、反省してないわ!!
「あかりちゃんてば、やっぱり進藤に甘い!ダメよ、もうちょっと厳しくしなきゃ」
男たちなんてすぐに調子にのっちゃうんだから。
「はぁ・・」
「奈瀬!うるさいんだよ!!」
「うるさくない!!少しは反省しなさい!」
ここは少々お姉さん顔吹かせてしまいましょう。
そして・・・
「ねぇ、イスミ君もそう思うよね」
にっこりと私の隣のイスミ君に笑顔を向ける。
「そ、そうだね・・・」
案の定、イスミ君はさらに青い顔をしている。
ここのところの自分の言動を思い出しているのだろう、結局彼も今日遅刻してきているのだ。
「せめて遅刻とドタキャンはやめて欲しいわよねー」とあかりちゃんに同意を求めると、
彼女はにっこり笑って「そうですね」と答えてくれた。どうも、私のイスミ君への視線でなんとなく私の意図を理解してくれみたい。
ちょっと楽しそうに悪戯っぽい表情を浮かべている。うん、この子本気で気に入ったかも・・・
「進藤、少しは反省しないと、本気であかりちゃんを合コンに誘っちゃうからね」
というと、進藤はキツイ視線を投げかけてきたけど、イスミ君の重みのある声での「気をつけたほうがいいみたいだよ」という言葉で
ぶつぶつと言いつつも、多少は納得し反省したらしい。
だけど・・
「あかりちゃん。受験終わったら、買い物とか一緒に行きましょうね」
という私の言葉に
「奈瀬にはもう絶対会わせねー!」と即座に断言したところをみると、かなり機嫌を損ねたみたい。
でもね・・
「あかりちゃん、受験応援してるね。メールもするから」
そう、すでにあかりちゃんの連絡先はゲット済み。
あかりちゃんの彼氏の座は進藤のものかもしれないけど、友人の座はもらったから。
「仲良くしてやって」と先に言ったのは進藤のほうだし、前言撤回してももう遅いもんね。
「あかりちゃん、友達になってね」
その私の笑顔に笑顔で返してくれたあかりちゃんを進藤はすごく悔しそうに見つめていた。
そして、進藤たちが帰っていったあと、私はイスミ君に笑顔を向ける。
「ねえ、反省した?」と。
まあ、私たちの場合はお互い碁バカだから強くは言えないんだけど・・
それはそれ、これはこれだしね。
奈瀬さん登場です。
一応、他のサイト様の影響を受けまして 伊角君×奈瀬さん です。
奈瀬さんのセリフの後に ♪ を付けてしまいたくなるのは何故だろう?
とっても書きやすいキャラです。