バレンタインー2−


むすっとしながら大きめの紙袋を目の前の少年に突き出した。

「あかりから」

始め、きょとんと不思議そうな顔をしていた塔矢だが、「ああ」と頷いて素直に受け取った。

「塔矢の分と。先生の分と。緒方さんに芦原さんの分だから」

何が悲しくて、自分の彼女からのチョコレートを他の男に渡さなければならないのだろう?

しかも、俺まだ貰ってないのに・・・

俺がムスくれた顔をしているのに気がついた塔矢は笑いながら礼の言葉を述べる。

「お返しはいらないからな」

こう言っても多分目の前の生真面目少年は用意するに決っているけど・・・






「ただいまー」

玄関を開けると、そこには明らかに母親のものではない可愛らしい女物の靴が。

「おかえりなさい、ヒカル」

にっこり笑って出迎えてくれたのは、案の定あかりで。

「来てたのか?」

「うん、上がらせてもらって待ってたの」

やっぱり当日に渡したしたいし、なんて可愛らしく笑って言っている。

だから、

「じゃ、頂戴」

と、手を伸ばした。

あかりはきょとんとした顔で俺を見た後、「後でね」とクスクス笑い出す。

「ねえ、その紙袋なに?」

あかりが俺の手にぶら下がっている紙袋を発見した。

「あ、チョコレート。棋院に届いてたんだ。やるよ」

そう言うと、あかりは目をパチクリした。

「・・・そんなに?」

大きな紙袋一杯のラッピングされた綺麗な箱をびっくりと眺めている。

これは、まずい?

「あ、ファンからのなんだ。棋院に送られてきていて。それだけだからな」

この頃、碁関係ではない雑誌などの仕事が入っているせいだろうか?

恐る恐るあかりを見れば、なんか瞳を輝かせて。

「おば様―。チョコレート追加ですー!!」

と、紙袋を受け取るなり嬉しそうに居間のほうに入っていった。




なんなんだ?

そう思いながら居間に入ると・・・・

床に広げられたチョコレートとラッピング材の残骸の数々。

そういえば、昨日も届いていた分持って帰ってきたんだっけ?

「おば様!!すごい、これ有名ブランドですよ」

「あら、これもすごく美味しそうよ」

「あ、これも知ってます!!」

「あかりちゃん。食べきれないし持って帰ってね」

二人して嬉しそうにチョコレートの品定めをしている。





あの、あかりさん?

俺、帰ってきたんですけど・・・・・

そう思いながら居間の入り口に寄りかかって、呆れて二人を眺める。

「あのー、あかり」

声をかけてみれば

「ごめんね、ちょっと待ってて」

と、やっぱり二人は相変らずチョコレートに夢中で・・・

こいつ・・・。ファーストキスがロマンチックじゃないとかなんとかって駄々こねたくせに。

バレンタインは思いっきり、色気より食い気取りやがったな・・・・

ムスーと膨れる。バレンタインなんて嫌いだ。

他の男へあかりからのチョコを渡さなきゃならないし(もちろん義理だけど)

あかりは俺が貰ってきたチョコに夢中だし(俺ほっといて)

しかも俺、まだ貰ってないし・・・・

「その、チョコ俺のなんだけど・・」

頭にきたから、そう主張してみた。そうしたら・・・

「・・・・・・」

あかりが振り向きながら、悔しそうに睨んできた。

「?」

「・・・・だめ」

微かに瞳が潤んでいるような・・・

「ヒカルは食べちゃダメだから・・・」

「あの、あかり?」

悔しそうに睨みつつ・・

「全部、私とおば様で食べるの!!ヒカルはダメ!」

そして、微かに顔を赤らめながらプィっと視線を外す。

あれ?あれ?もしかして、これって?

へへっと自然と顔が歪んでくる。

「あかりー?何でダメなわけ?」

そう言うと、ますますムスーっとして悔しそうに唇をかんでいる。

・・・可愛い。だから、もうちょっと苛めてやりたい気もしないでもないけど。

「俺さー。どうしても一個は食べたいんだけど」

あかりは一瞬きょとんとした後、少し照れながら綺麗にラッピングされた箱を手渡してきた。

「へへ、ありがとう」

顔がにやけながらも、礼を言う。毎年貰っていたけど、やっぱり付き合ってからだとなんか違う。

でも、一つ気になることが・・

「あの、これって中身・・・」

恐る恐る聞いてみる。去年はだって・・

「ヒカルのは特別製だから」

あかりが赤くなりつつ、可愛らしく笑ってそう言ってくれた。

「やりー。俺、この一つだけでいいから」

そう、欲しかったのはこの一つだけ。

目の前で、あかりが嬉しそうに晴やかに笑った。やっぱりあかりは笑ったほうが可愛い。




思わず、あかりに手を伸ばして抱きしめようかな、と思ったところで一つ思い出した。

そう、母親がくすくす笑いながらこちらを眺めている。

「・・・・・」

さすがに、少々照れて顔が赤くなる。

何、見てんだよ。気を利かせて部屋から出るとかしてくれよ・・・

あかりも母親に気づいて、赤かった顔がますます赤く染まる。

そんな中・・・母親の視線が俺の手元に注がれている?

「かあさん?」

「・・・・あかりちゃんの特別製」

あの目線は・・・

「かあさん!これは俺が食べるんだよ!!」

慌ててそう言えば。

「あら、ケチねーヒカル」

と残念そうに呟いていた。



いや、今時のブランドチョコは美味しいらしいので・・・ うーん、食べてみたいなーと。 進藤君すね編とあかりちゃんやきもち編でした
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