笑顔の理由
◆高校1年 秋◆


藤崎あかりは途方にくれていた。

今までだって、こういうことは何度かあった。でも・・・・

目の前の少年は部活が一緒の同級生。

私は戸惑いながら彼を見つめた。




「好きなんだけど・・・」

帰り道、ごく普通に言われた。

「付き合ってもらえないかな?」

びっくりした私に優しく問いかけてくれた。

私が返事も出来なくて、戸惑っていたら

「ダメかな?」

と、ちょっと困ったように照れたように、それでも優しく言ってくれた。

目前の背の高い真面目そうな少年。



「あの・・・」

どうしよう、どうすれば・・・

今まで、何人かに同じようなセリフを言われてきた。でもその人達のほとんどはよく知らない男子生徒。

だからその人達にはすぐに『ごめんなさい』と謝れた。

理由は『○○さんのことあまり知らないし』だったり、『今付き合うつもりないから』だったり。

でも・・・

目の前の少年はよく知っている人で。

部活でも気があってよく話すし、話していて楽しいし。

やさしいし、頭もよくて、とても仲のいい仲間で・・・

とても良い人で・・



どうすれば・・・・・



「藤崎。今付き合っている人いないだろ?」

コクンと頷く。

別に付き合っている人はいない。

誰かと付き合いたいとも思っていない。

そんなこと、考えていない。

何かが心に残っていて・・・

誰かと付き合ったりするのはダメな気がして。



「誰か好きなやつとかいるのか?」

ビック!!としてもう一度彼を見上げる。

私はたぶん本当に戸惑った顔をしていると思う。

彼はそんな私を見て、困ったような顔をして、そして苦笑した。

「そっか、いるんだ」

いる?だれ?

心をよぎるその面影は・・・・・




「違う!!ヒカルはそんなんじゃない!」

思わずとっさにそんな言葉が口から出る。

「そんなんじゃ・・・」

認めたも同然じゃない、ふとそんな言葉が心に浮かぶ。



この頃は会うことも少なくなった幼馴染。

たまに顔を見かけて、挨拶交わす程度。

いつも忙しそうで、いつもここじゃないどこかを見つめていて。

私のことなんて見ていなくて。

最後に会ったのはいつだっけ?

男女の幼馴染なんてこんなものなのかもしれない。

しかも、私は普通の女子高校生。相手は囲碁のプロという特殊な立場。

彼の傍にはもう私の場所はないのだろうか?

あまりにも近くにずっといたから、一緒にいるのが当たり前で。

中学時代、彼が囲碁のプロを目指して、少しずつ私達は離れて行って。

そして、本当に離れてしまうのだろうか?

寂しくて、囲碁という世界で繋がっていたくて、囲碁をまた続けて・・・




寂しくて・・・・




「ごめん!藤崎。俺・・・」

慌てた声が聞えた。

いつのまにか涙が流れていた。

「ごめん。佐々木君が悪いんじゃないの。ごめんね」

涙で濡れた瞳で笑顔を作る。彼が悪いんじゃない。

悪いのは私。

「わからないの・・・・」

困ったように苦笑する。

「私、彼のこと好きなのかな・・・」




わからない。

好きなのか。それとも寂しいのか。

好きなのだろうか?それとも一番近かった存在が離れていくことが怖いのだろうか?

会いたい理由は・・・

離れたくない理由は・・・

私を見てくれないのが悲しい理由は・・・



好きだから?寂しいから?失いたくないから?変りたくないから?

「わからないの・・・、ごめんね」

それでも、誰かに付き合おうと言われたとき、誰かに好きだと告白されたとき。

必ず浮かんでくる笑顔、真剣な眼差し。

そして私の心を押しとどめる。



「だがら、ごめんね」

小さく呟くように、断りの言葉を述べる。

彼はすごく良い人で、付き合ったら好きになれたならきっとすごく楽しくて幸せなはずなのに・・・・




彼は深いため息を一ついた。

「藤崎。わからないって、それ絶対好きだろう?」

「・・・そうなのかな?」

顔を上げた私に、困り顔のまま言葉を続ける。

「そうじゃなきゃ、涙なんて出ないと思うよ」

そうしてまた一つため息をつく、「あーあ、やっぱりダメだったかー」と呟きながら。



「あの。ごめんなさい」

「謝らなくても、仕方ないことだろう?」

そして小さく肩をすくめて笑う。

「まあ、正直残念だけどな」

絶対、付き合ったら上手くいくと思ったんだけどなー俺たち。と明るい笑顔を私に向ける。



すごくいい人なのに・・・



「ごめんね」

申し訳がなくて謝る私に、彼は戸惑った表情を向ける。

「そんなに申し訳なさそうにされると、こっちも困るよ。なんと言っても数少ない部員の仲間だしね。

これからも今までどおり楽しくやっていかなきゃなんないんだしな」

そしてまたやさしく微笑む。

強い人だなと思う。



「それより、藤崎。お前告白とかしないのか?お前なら絶対上手くいくと思うけどな」

俺が好きになったぐらいだからなーと悪戯っぽく言ってくるのだが。

カァァと頬が赤くなる。

「で、でもダメなの。出来ないの」

私が慌てて否定すると、不思議そうな顔をする。

「あの。彼、すごく忙しくて。今夢中になっているものがあって。私のことなんて・・・・」

語尾が小さくなっていく。

「幼馴染なんだけど、あまり会えなくて・・・・・」

そう言えば、指導碁の話も出来ていない。



「ふーん。そうか・・・」

いろいろあんだろうな・・・と小さく神妙に呟く。だけど・・

「でも、まあ、頑張れよ。第一、この俺を振ったんだからな。

その片思いのやつを落として付き合ってもらわなきゃ、振られた意味ないだろう、俺」

えっ!とびっくりする私に佐々木君は悪戯っぽく笑う。

「俺。これくらいは言う権利あるよな」



そのムチャクチャな言い分があまりにも佐々木君らしくて思わず笑ってしまう。

それを見て、安心したように笑ってから彼は「藤崎なら上手くいくよ、きっと」と言って

「じゃあな」と手を振って立ち去っていった。



一人になってからの帰り道。

小さくため息をつく。

私はやっぱりヒカルが好きなのかな?

頭をよぎるのは、いくつものヒカルの笑顔。そして碁盤に向かった真剣な顔。

会いたいな・・・・

素直にそう思える。

やっぱりこれは好きという事なのだろうか?



「あーあ。頑張れって言ったって、まずは私を見てもらわなきゃ」

会うことも少なくなった幼馴染。

前だけを強く見つめ、振り返らなくなった幼馴染。

その先に見つめるのは、碁の最高峰。

「ヒカル、頑張ってるもの・・・」

邪魔をしたらダメな気がする。

それでも・・・

「会いたいなー」

そう思えるってことは、やっぱり好きということなのだろう。



大きく息をすって、そうして大きく息を吐く。

なんか心がすっきりした。

そう、好きだってことがはっきりしたから。

「まずは私を見てもらわなきゃ」

よし!と気合を入れて、私は自然に笑顔になり、体まで軽くなった気がした。


あかりちゃんサイドを書いてみようかな、と思いまして。 ちょっと、せつなめかもしれません。 一応、これは自覚編と申しますか、目を背けていた自分の気持ちをはっきりと受けとめた編かな。 そんな訳であかりちゃんサイドでしばらく続く予定です。 私の他の作品とのつながりで不自然さがあっても多めに見てくださいね。 それにしても1話1ページを目指したいのに、めちゃくちゃ初めから長い文章ですね(^_^;) この後、大丈夫だろうか・・・・私。

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