笑顔の理由
◆高校2年 春◆


「で、未だに幼馴染を抜けられない訳?」

私が呆れた様な視線を向けると、彼女は小さく頷いた。

「あのねー。春休み何をやっていたの?」

そう言う私に友人は指折り答える。

映画・食事の差し入れ・指導碁・中学時代の友人含めて花見・・・・・・

「それだけ会っていて進展なし」

思わず頭を抱える。

「まあまあ、志保。いいじゃない、人それぞれペースってものがあるし、ね」

間に入って場を取り成すのは活発な友。

「片思いの時って楽しいものねー」

ニッコニッコ笑って友人を援助する。

私は深いため息をつく。

だって、目の前で困ったように微笑みを浮べている友人は、学年一の美少女なのだ。

しかも明るいし、性格も良いときている。

もちろん、学年一もてて告白者は後をたたない。

なのに!!

「あの、くそバカプロ」

憎憎しげにそう呟けば、あかりはもっと困ったような顔をする。

「志保。あなたもその外見でその言葉づかいはどうかと思うわよ」

せっかく美人なのに・・・・と、美紀がため息をつくがそんなことはどうでもいい!

私の中で、あかりの片思いの相手は「バカプロ」と命名されている。



あかりとは一年の頃からの友人だ。

可愛らしい外見だけど、意外としっかりしていて話しやすくて気がつけば一緒にいることが多くて。

そして二年になっても、また同じクラスで。

彼女はもてるくせに告白者を片端から断っていて、いつの頃からか断る理由が

『今誰とも付き合うつもりないので』から『好きな人がいるので』に変っていた。

そのうちに、相談と言おうか、グチと言おうか。とにかくいろいろ状況を聞いていれば・・


相手は幼馴染で、映画だの、何だのっていきなりあかりを誘い出したり、

友人宅に呼びつけて食事のしたくだの片付けだのをさせているくせに、

唯の幼馴染と明言しているらしい。

唯の幼馴染にそこまでさせるのか!!



これでいきなり彼女でも作ってあかりを泣かせるようなまねしてみなさい、ただじゃおかないわ。

目の前のこの親友には、付き合いたいって男はいくらでもいるのよ!!

私はフルフルと手を握り締める。



ふと気がつけば、目の前であかりと美紀が楽しそうに笑って話していた。

「それにしても、まさか藤崎さんがずっと片思いなんてねー」

学校違う彼氏がいると思ってたわ、と今年からクラスが一緒の美紀がビックリしたように話している。

「意外だわ」

つくづくと呟く。

「だから、相手がバカなの。碁バカよ」

「碁?ああ、藤崎さん囲碁部だっけ?」

ということは、やはり囲碁部の人?と首を傾げる。

「違う。碁のプロ。だからバカプロ」

「プロ?じゃ、おじさん!!」

まさか妻子持ち!!と何故か的外れな勘違いをする。

「あ、あの。違うの!同じ年の幼馴染なの!!」

慌ててあかりが否定する。

「今彼、碁の方が大切で一生懸命で、私のことはあんまり・・・」

ちょっと寂しそうに笑う。

「そのくせ、あかりをいいように使っているわけよ」

食事を作らせたり、気分転換に付き合わせたり。

「映画とか二人で行っているんでしょ。幼馴染なの?」

不思議そうに美紀が質問する。

「うん。幼馴染なの、唯のね」

困ったような、寂しいようなそんな表情。

「食事差し入れたりしてるのに?」

微かに苦笑して頷く。


「・・・・・・」

美紀も黙り込んで悩み始めた。

「藤崎さん。でもそれってチャンスはあると思うのよ」

うんうんと頷きながら続ける。

「とりあえずは、たまに会っているんでしょ。しかも彼から連絡も来るわけなんでしょう」

一つ一つ確認する。

「たとえ、映画の無料チケットがあるからって理由だとしても、誘ってもらっているわけだし!

だって藤崎さんよ!絶対落とせるわ!!」

頑張って!めげちゃダメよ!!とあかりの手を握る。

「応援するわ!藤崎さん!!」

きらきら目を輝かせている。

「片思いの時って楽しいのよねー」

と、ニコニコ笑う美紀につられてあかりも戸惑いつつも笑顔になっていた。

美紀は、作戦立てなきゃと本当に楽しそうだ。

そして・・・

「そうよ!テレビで聞いたの。『男の人は胃を捕まえられたらもう逃げられない』んだって!」

「?」

私達2人は首を傾げる。

「だからー。美味しい料理で釣るのよ!!」

美紀?

「藤崎さん料理差し入れたりしてるって言ってたじゃない。さらに美味しいもの食べさせて、

餌付けしちゃえばいいのよ!!」

言葉づかいが悪いのはどっちよ・・・・

私は呆れて何も言えず美紀をただ眺める。

「それでね。藤崎さん、一緒に『玉養成所』入らない?」

いきなりおずおずと美紀が言い出した。

どうも、これが本音だったのかもしれない。

『玉養成所』正確にはベテラン主婦でもある家庭科の玉村先生による『家政同好会』。

別名『玉村主婦養成所』平たく言えば、お料理教室だったりする。

「あのね、私の彼。大学一年なんだけど一人暮らししてて・・・・」

つまり逃げられたくないのは美紀らしい。

「どうかなぁ?」

そう言う美紀にあかりは真剣に何か考え始めた。


「うーん。たしかに作れる料理限られているし。お母さんに教わったりしてるけど・・・」

料理作りに行くって度に何作ろうと頭を抱えていたあかり。

そのくせ断れないのだ。「だって折角会える機会だし。お礼って言ってまた会う機会も出来るし」

と嬉しそうに笑いながら料理本と睨めっこしていた。


「そうだよね。私も頑張っちゃおうかな。同好会なら掛け持ちできるかなあー」

と、そういうあかりに美紀は嬉しそうに頷いた。

「美紀ちゃん。一緒に頑張ろうね。すっごく美味しいもの食べさせてビックリさせちゃおう」

あかりがにっこり美紀に笑いかける。

「私頑張るから。少なくともヒカルの一番近い女の子は私なんだし。いつかきっと!!」

グッとコブシを作り、私負けないわ!!と意気込むあかり。

そしてお互い彼氏&好きな人話を楽しそうに始めた訳だけど・・・


『胃を捕まえる』って・・・・

どう考えても女子高生の恋愛の手段じゃないわ。

目の前で嬉しそうに幼馴染の話をしているあかりを見つめる。

文句なしの美少女なのに・・・・

どうしてあかりがこんな苦労をしなくちゃならないのか。

どうして寂しそうに笑わなくちゃならないのよ!



バカプロの所為だ。

このあかりの真っ直ぐな気持ちを向けられているくせに、

全然気づかずに『唯の幼馴染』扱いしているなんて。

しかも明言されているから、告白すらできないでいるのだ。

もし会うことがあれば絶対に睨む程度じゃ許さないわ。

私は密かに心に誓い、微かな笑みを浮べた。



あかりちゃんサイド。友人編。 傍から見れば進藤君はあかりちゃんを振り回している我がまま少年かな、と。 「胃を捕まえる」というのはテレビ番組で本当に芸能人が言っていた言葉です。 この方法が有効かどうかは私にはわかりませんが(^_^;) まあ、あかりちゃん料理上手の影に努力あり!というお話でした。 ちなみに「バカプロ!」という言葉を出したかったという説もあります^^;

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