笑顔の理由
◆高校2年 秋◆



「ヒカルのバカー!!鈍感!!」

私はマイクを手に思いっきり叫ぶ!

「ヒカルなんて、ヒカルなんて・・・・・大っ嫌い!!」

とにかく思いっきり叫んで、肩で息をする。

「あかり、落ち着いて」

「どう、少しはすっきりした?」

と2人の親友が声をかける。

その2人に私はキッと目線を向けた。

「私、ヒカルのお母さんじゃないもの・・・」

うんうん、と2人が頷く。

「幼馴染、幼馴染って。いつまで幼馴染なのよ!!」

マイクは手放さない。

「私は都合のいい幼馴染じゃないのよ!!ヒカルのバカー!鈍感!」

料理だって頑張って覚えたし、ヒカルの誘いはできるだけ行けるようにしたし、

ヒカルのために可愛らしい格好したり、応援したり、勇気付けたり、一緒に笑ったり・・・

「私にあとどうすれば良いって言うのよ!!」

思いっきり声をだしてから大きく息を吐く。

「どうすればいいの・・・・」

小さな声で呟くように言う。

目の前で親友達は困ったように顔をあわせていた。




ヒカルの傍で笑っているのが辛くなることがある。

会えると嬉しいのに、でもただの幼馴染という立場が辛くなってきて。

前は幼馴染という傍にいられる立場に安心していたはずなのに・・・

一番近い女の子だからって、頼ってもらえてるって、それを嬉しいと感じていた時期もあったはずなのに、

今はその言葉を自分に一生懸命言い聞かせて。

ヒカルは私をどういう風に思っているのだろう?




緒方さんが、「いい加減付き合ったらどうだ?」とたまに言うことがあるけど、

いつも「あかりとー!?幼馴染だぜ。」と笑って即座に否定する。

私に苦笑以外どんな表情ができると言うのだろう?




近くにいるのに、手を伸ばせば掴めそうなのに、手が届かない・・・

近くにいる分、掴めそうなほど近くにいるから、辛くなる・・・





それなのに、会えると嬉しいのだ。

誘ってもらえると嬉しくて、嬉しくて、断ることが出来ない。



でも、幼馴染としか思ってもらえない私。





「あかり、進藤君をいい加減諦めて他の男の人と付き合ってみたら」

志保がまるで試すように私に言う。

「・・・・・・」




出来るわけがない。出来ない。思い出すのは夏のこと。

どうしても諦められない、せめて試しに1日デートしてみてくれ!

という人をついに断れずに結局デートしてしまったこと。

ちょうど、ヒカルとの事に自信が無くなって来た頃、疲れてきてしまった頃。

つい断れなかった。ちがう、多分私は逃げたのだ。

片思いという現実から、少し逃げてみたかった、試してみたかったのだ。




楽しかったのだと思う。自然に笑う事だってできた。

でも、彼の言葉の端はしで浮かんでくる顔。

あ、今のところヒカルなら・・・

ヒカルとだったら・・・

ヒカルを思い出さないようにしなくちゃと思えば思うほど浮かんでくる顔。

楽しいはずなのに、脳裏に浮かんで離れない顔。

つい比べてしまう、彼とヒカル。

ヒカルだったら今どうしてた?

考えてしまう・・・・




彼と別れて家にたどり着いた時には、どっと疲れが体に回って。

ベットにドッサッと倒れこんだ時には、動けなくなっていた。

そしてわかってしまったこと・・・・





私は天井を見上げながらクスクス笑い出す。

可笑しくてしょうがなかった。

「ダメじゃない私」

涙が取り留めなく流れてくる。

「私、何やっているんだろう・・・」

視界が涙に濡れてくる。

彼といる間ヒカルのことが離れなかった。

彼のささいな仕草でさえヒカルと比べてしまう。

「私、結局ヒカルじゃなきゃだめなんじゃない」

私を幼馴染以上には見ることのない片思いの相手。

結局、自分の気持ちを再確認するだけだった。






出来るわけがない・・・

恐らくその気持ちが表情に表れていたのだろう、志保はやさしく微笑み私に告げる。

「ほら、進藤君しかダメなんでしょう。もう告白したほうがいいわ」

解っている。解っていた。

このまま中途半場はもう辛いだけだということは。

「でも、告白してダメだったらきっともう幼馴染にも戻れない」

小さく呟くようにしか声がでない。

もう何度も何度も言い訳のように言い続けた言葉。

言い訳ばかりで弱い私。

「ヒカル。どうして私を女の子として見てくれないのかな」

幼馴染を皆の前で強調するヒカル。まるで『幼馴染以上に近付いてくるな』と言われている気がする。

予防線を張られている気がする。

料理が得意な都合のいい唯の幼馴染なのだろうか?

ヒカルは私をどういう風に思っているのだろう?





「どうすれば・・・・、いいんだろう・・・」

ヒカルが私を誘ってくれるたび、明るい笑顔を私に向けるたびに期待してしまう。

そして「幼馴染」といわれる度に辛くなる。




気がつけば瞳に涙が浮かんでいた。

言葉が涙に濡れ始める。




「・・・あかり。ね、もう進藤君に告白しちゃいなさい。あかり頑張ったもの。

大丈夫きっと上手くいくわ」

ずっと近くにいたんだから・・・そう志保が優しく言ってくれる。




「そうよ、あかり。思い切って行くべきだわ」

美紀が笑って言ってくれた。

「高校生活もあと半分よ。片思いで終らせるつもり?」

にっこりと聞いてくる。

「それは・・・」
そんなつもりは無い。私だって普通に付き合って、みんなみたいに楽しく過ごしてみたい。

「ほらね。思い切っていくべきだわ。大丈夫よ、話を聞いていれば幼馴染って言われているけど、

実質ほとんど付き合っているような状態じゃない」

だから、きっと大丈夫。

明るく笑って勇気付けてくれる。




「とにかく告白したほうがいいわ。このままじゃあかりが前に進めない。

例え万が一ダメだったとしても、あかりも諦めがつくでしょう?このままじゃどこにもいけないわ」

上手くいって付き合うにしろ、振られるにしろ、今のこの中途半端な状態は抜け出したほうがいいと。

言いづらそうに、でもはっきりと志保が言う。




きっとそうしないと私はどこにも進めない。

ヒカルは頷いてくれるかもしれない、してくれないかもしれない。

でも、どちらにしてもはっきりする。

だから・・・・

「文化祭が終ったら告白する」

小さな声で心配そうな2人に約束する。

少しだけ自分に猶予を与えて。

「大丈夫。心配しないで」

私はにっこり笑う。自分を元気付けるために、2人を安心させるために。



あかりちゃん片思い編です。 あかりちゃんを泣かせてみたかったのです・・・・ すごく近くにいるのに、自分を恋愛対象として見てもらえないのはつらいと思うので。

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