仕事が終った頃にはすでに日は落ちていて、あたりは薄暗くなり始めていた。
でも俺的にはこれでも早めの帰宅となる。
今日は夕飯普通に食えるかなーとそんなことを思っていた。
電車の中には何人かの高校生が楽しそうに談笑しながら乗っていた。
かれらは何処かの駅で何人か乗ってきたかと思うと、何人かが降りていき、
入れ替わり立ち代り楽しそうな笑顔を常に車内に振り撒く。
俺も碁やってなかったらあの中の一員だったんだろうなー。
あんな風に誰かと笑いながら話していたんだろうか?
聞えてくる内容は、学校の話だったり、ドラマの話しだったり、
誰かと誰かが付き合ってるだの恋愛話だったり。
女の子同士だったり男同士だったり、男女のカップルだったり。
すごくのほほんとした会話だ。
別に自分の世界がどうこう言うわけじゃないけど、
彼らがものすごくお気楽だと言う訳じゃないけど、
俺だって結局好きでこの世界に居るわけだけど、たまにいいなと思うこともあって。
俺も、高校行ってたらあんな風に誰かと二人で帰ったりしたのかな。
向こうのドアの付近にいる2人の高校生。
男子が高い吊革を持ちながら楽しそうに笑って目の前の少女を見下ろして話している。
何を話しているかは聞えないけど少女のかすかな笑い声が電車の音に紛れて聞えてくる。
俺もあいつとあんな風に帰ったりしたのかな?
脳裏に浮かぶのは幼馴染の姿。
中学の頃はあいつの方が背が高くて、一緒に歩くのが悔しかったけど。
いつの頃からか俺の方が高くなっていた。ちょうどあの二人のように。
電車が駅に止まり、あの二人は駅を降りていった。
代わりに乗り込んでくる大勢の人たち。ちぇ!混んできやがった。しかも高校生が多い。
先ほどの二人のいたドアとの間には人がなだれ込んできて見えなくなっている。
目の前にも多くの人が流れてきた。
だから頭の中で棋譜を描いていたのだけど。
だんだんまた車内が空いて来たらしい、降りる最寄り駅まであと数駅だ。
ふと、何気なしに先ほどのドアの方へ目線をやると、
またそこには先ほどの二人のような男子生徒と女子高生。
でも、ちょっと、待てよ・・・
斜めからしか見えないけど、あの楽しそうに目の前の男子を見上げて笑っているのは・・・。
離れているけど、人影の隙間からしか見えないけど、俺は目が良いんだ。
それにあいつを見間違うはず無くて。
あかりだ・・・
あいつ!何やって!!
まず浮かんできたのは怒り。何笑っているんだあいつ、あんな男に!!
次に浮かんできたのは、焦り。まさかあいつ、あの男と?
そして、喪失感。
明るい車内のはずなのに、いきなり目の前が薄暗く感じた。
思わず椅子から立ち上がった足元がぐにゃりとしている気がする。
うそだろう?目に映る光景が信じられなくて。
しらない男と楽しそうに笑いながら一緒に帰ってる。
この車内でも、街中でも、そこら中にいる高校生カップルのように。
冷や汗が背中をつたう。
だって、あいつは俺の・・・。
俺の何?