がたり!いきなり車がカーブで揺れた。
立ち上がって何も捕まっていなかったから、体が大きく揺れる。
とっさに体制を立て直してから、あいつらを見ると。
あかりも体勢を崩したようで、あの男に支えてもらっていた。
あの野郎の手があかりに触れている。
一気に頭に血が上り、乱暴に荷物を掴み、彼らの方に歩いていく。
「あかり!」
とにかく名前を呼ぶ。男の存在なんて知るもんか!
あかりはその声に反応して、びっくりしたようにこちらを振り返った。
そして俺の存在を確認すると、いつもの嬉しそうな笑顔で笑ってくれたのだ。
あれ?いつもと同じ?
俺はそのいつもの笑顔でいくらか安心する。いつものあかりだ。
「ひかる!どうしたの?いま帰り?」
嬉しそうに話し掛けてくる。その後ろで男は怪訝な顔をしていたがとにかく無視!!
「ああ、今帰り。あかりも?」
「うん!」
あかりの笑顔に笑顔で返事をする。
「ちょっとね、学校で行事があってその準備で少し遅くなっちゃったの」
どうやらあかりの普段からするとすこし遅いらしい。
「藤崎?」
男が会話に入ってきやがった。
あかりはあっ!という顔をした後(どうも忘れていたらしい)
男の方を向いて「ごめん」と軽く誤っていた。なんか気に食わない。
だから俺はその男を鋭く睨みつける。
「あのね、ひかる。彼はクラスメートの木村君。
今日遅くなって暗くなっちゃったから、送ってくれているの。
木村君、彼は幼馴染の進藤ひかる君」
あかりがお互いを紹介してくれた。
クラスメートだよな、唯の。そう思いながら軽く頭を下げる。
そうするとあいつは丁寧に挨拶してきた。
「はじめまして、木村です。噂には聞いてます。
藤崎の幼馴染で碁のプロ棋士の人ですよね。同い年なのにすごいですね」
にっこり笑って握手を求めてきた。こいつ今幼馴染を強調しなかったか?
「どうも、進藤です」
手を握り返してかるく挨拶をする。なんか気に食わない。
その時、電車が駅に着いた。俺が降りる1つ手前の駅だ。
人が入ってくるのをよけて、また電車が走り出すのを待つ。
「木村さん。こいつをここまで送ってくれてどうもすみません。ここからは俺が送りますから」
俺はワザと余裕の笑顔を作りながらあいつに言ってやったんだ。
「ほら、あかりもお礼言えよ」
そしてあかりを促す。あかりはそうだねって当然のように木村って男にお礼を言う。
ふん!唯のクラスメートなんだからお前はここまでなの!俺がいるんだから!
木村はちょっと慌てたように、家までちゃんと送るよなんて言ってやがる。
「大丈夫ですよ。俺、こいつの家のすぐ傍に住んでいるんで」
そう言いながら、こいつは俺のとばかりにあかりの頭を手でグリッとかき回す。
「ちょっとひかる!もー。木村君、ほんとここまでどうもありがとう。
進藤君もいるしここまでで大丈夫。遠回りさせちゃってごめんね」
木村は俺の顔とあかりの顔を交互に見てから、どうもやっと諦めてくれたらしい。
じゃあ、気をつけてなんて残念そうに言っている。ざまーみやがれ!
俺はあかりのかばんを持ってやりながら、
じゃあ、と軽く会釈をして開いたドアからあかりと外に出た。
あかりは律儀にドアの外から木村にバイバイと笑顔で手を振っている。
その後ろでもちろん俺はあいつを睨みつけてやった。