いらいらする -2-



     そこから家まであかりと喋りながら帰った。
     こんな風に二人で帰路を歩くなんてすっごく久しぶりで、
     あかりの歩調に合わせてゆっくり歩いた。
     あかりは嬉しそうにさっきからぺらぺらと話が止まらない。

     学校でのいろいろな話。
     勉強がどうだの、先生がどうだの、高校での友人がどうだの、
     はっきり言って今の俺には縁遠い内容で今一ピンとこない。
     第一、知らない名前ばかりだ。


     でも、話のたびに相変わらずコロコロと変るあかりの表情を見ているのが
     なんか楽しくて、目を離すとなんかもったいないような気がして、
     あかりを見下ろしながら大人しくあかりの話に耳を傾ける。



  
     「で、ひかるはこの頃どう?」
     自分の話に満足したのだろうか?今度は俺に話を振ってきた。
     「ま、一応頑張ってます」
     近所のおばさんとかにもよく聞かれる質問。で、よく答える返答。
     ちょっとムッとしてしまう。こいつもこれを聞くのか・・・

     でも、あかりはおばさんたちとは違う反応で。
     「そんなの知ってるよー」
     そう言って笑う。
     「そうじゃなくて、ねえお友達とか出来た?」

     友達?ちょっと考える。
     「いるよ。和谷とか伊角さんとか。ほら院生時代からの。
     でも、やっぱ年上が多いからなー。あ、和谷は1つしか変らないけどさ。
     同じ年だと、塔矢とか関西の社とか」

     「なんだ。映画一緒に行く友人いないのかとおもっちゃった」
     はぁー?
     「なんだよそれ?」
     「だって。この映画有名だし。他に誘う人がいたんじゃないかなーって」
     ちょっと言いづらそうに言うあかり。

     「俺と行きたくないわけ?」
     あかりは俺とじゃなくて、別の友人と行きたいんだろうか?
     「ち、違うって。そうじゃなくて・・・」
     ちょっと慌てて、そして何故か顔を赤らめて
     「私でいいのかなーって」
     はい?
     「私でいいの?」
     真っ直ぐに顔を見上げてくる。

     バカかこいつ。今更遠慮するような間柄か?
     「ばーか。何遠慮してんだよ。
     恋愛映画なんて男といったってしょうがないだろう?お前でいいの」
     そう言ってやると、あかりは安心したように笑う。


     あんまり嬉しそうに笑うからちょっと意地悪言いたくなって。
      「お前も一応女だし。お前を映画に誘うような物好きいないだろうからなー。
      やさしいお幼馴染に感謝しろよ」
     なんて言ってみた。

     「な、ひどーい。私にだって映画に誘ってくれる人ぐらいいるんだから!!」
     また真っ赤になって言い返してくる。って居るのか?こいつにー!
     「私だって幼馴染だからひかるに付き合って行ってあげるんだからね!」
     プィ!とまた横を向く。

     「お前、彼氏とかいるの?」
     一瞬不安が湧きあがりそう聞くと、えっ!とこっちをまた向いて、
     プルプルと勢いよく顔を横に振った。
     何故だかちょっとほっとして、楽しくなって、またちょっとからかいたくなって。
     「いないんだー。だよなー」
     「だよなーって失礼でしょ!!」
     俺の言葉に体全体で反応しているあかりをみているのが楽しくて。
     思わず腹を抱えるほど笑ってしまう。
     「ひ、ひかるのバカー!」
     怒るあかり。そろそろやばいか?
     「ごめんって。冗談だって。ま、とりあえずこの映画は俺と行こうな」
     そう笑いながら言うと、ぶつぶつ言いながらも了承したようだ。
     まあ、見たい映画って言っていたしな。




     「でも、ひかる、囲碁の人と仲良くやってるんだ。よかったね、楽しい?」
     機嫌を治したあかりがまた質問してくる。
     楽しい?そりゃ、好きなことやっているし・・・・
     あれ?そういえば楽しいって俺この頃思った?

     そう思って思わずまじまじとその質問をしてきたあかりを眺めてしまう。
     この頃、すごくいらいらしていて、焦ってて。俺、碁を楽しいって思ったか?

     そんな余裕なんて無くて。今日だってさっきまで・・・・

     ほんの十数分前まで自分を支配していた感情を思い出す。
     強烈な焦りと焦燥感。
     あんなに自分じゃどうもしようもないほど支配されていた感情を忘れていた。
     忘れていただけじゃなくて、思いっきり笑っていた?
     こいつの所為?


     「ひかる?」
     考え込んだまま返事をしない俺に不安に思ったのか、おそるおそる名前を呼んできた。
     「あ、ごめん。そうだな、大変なことも多いけど楽しいよ」
     そっかーよかったね、と言って俺のことなのにまた嬉しそうに笑う。

     そう、楽しい。楽しいはずなんだ。忘れてた。俺好きで碁をやっているんだ。
     俺、何やってんだろう・・・
 
     「じゃあさ、塔矢君達と遊びに行ったりするの?」
     あかりは暢気に質問を続ける。
     「いや、そういえば塔矢とは行かないなー。碁ばっかりだ」
     「ひかるも塔矢君も碁が本当に好きなんだねー」
     くすくすとあかりが笑い出す。
     「塔矢とは友達ってより、ライバルなの!ラ・イ・バ・ル!!」
     そう強く言うとあかりはびっくりしたように見上げてきた。
     「そっか、そういえばそうだったね。いいなー、そういう関係も素敵だね」

     素敵、素敵かー?
     俺はちょっと小首をかしげる。
     考えたことなかったよなー。でも確かに悪くないよな。
     「だろ。いいだろう」
     そう俺はちょっと自慢げに言ってみた。
     あかりはそれを聞いてまたくすくす笑う。


     本当にこいつはよく笑う。


     だから俺もつられて笑ってしまうんだ。



               あかりちゃん、とにかくよく笑うお年頃です
               
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