いらいらする -3-



     「なあ、あかり」
     うん?って俺を見上げてくる。
     「俺さ、今日負けちゃったんだ」
     あかりは少し目を見開いたあと、何も言わずに軽く微笑んだ。
     優しい眼差しとともに。

     「でも!その、接戦だったんだぜ。年配の熟練棋士で強い人で。
      結局負けたけど、相手が狡猾だったっていうか。
      最後の詰めで数目差で負けて、とにかくいい勝負だったんだ!!」
     あかりのその優しい微笑みを見た瞬間なんかあかりには同情はされたくないって
     感情が湧きあがり、思わず言い訳じみたことを言ってしまう。

     あかりはちょっと俺の勢いにびっくりしたみたいだった。
     なんか俺、格好悪くないか?負けたって言ったり、言い訳してみたり・・・・
     言わなきゃよかった。そんな思いが心の中を駆け巡る。

     でも、あかりは
     「そう、よかったね」
     そう言って、晴やかに笑ったんだ。

     「へ?俺、負けたって言ったんだけど」
     なんだよ、俺が負けたことが嬉しいのかよ・・・・
     「うん。でも、すっごく強い人と接戦だったんでしょ。すごいね、ひかる」
     ひかるって本当に強くなったんだねーってきらきらと瞳を輝かせて俺を見つめてくる。


     「今回は負けちゃったかもしれないけど。きっともっとどんどん強くなっていくね」
     嬉しそうに笑うあかり。
     「ほら、何事も失敗して上達していくって言うじゃない?」
     ちょっともっともらしく偉そうに俺に言って、いたずらっぽく笑うあかり。
     「強い人と対戦できてよかったね。ひかる」
     明るく笑うあかりを見ていたら、なんか俺まで気持ちが軽くなった気がしてきた。
     だから・・・・
 
     「うん、そうだな」
     そう素直に言葉が出てきた、笑顔と一緒に。
     そうしたらあかりはさらに嬉しそうな笑顔を返してくれた。


     「俺、頑張るから。もっともっと強くなるから」
     そうだよ、強い人とどんどん試合して、負けてもなんでも経験して、
     吸収して少しずつ、一歩一歩、強くなっていけばいいんだ。


     それで、あかりはここでこうしてればいいんだ。
     「お前はとりあえず、笑っておけ!!」
     なんだか、よく判らないけどそんな言葉が口を出た。


     あかりは一瞬何を言われたか解らなかったみたいで、
     俺をきょとんと見つめたあと、ちょっと考え込んでいた。
     で、
     「それって、私は暢気ってこと?」
     「へ?」
     いやーそう言うわけじゃないんだけど・・・。
     あれ、どういう意味だったんだろう?
     「私って悩みなくて、へらへら笑ってばっかりってこと?」
     「い、いや。違う!」
     たぶん違う。そうじゃなくて・・・
     なんて説明すればいいんだ?

     「ひどーい!!」
     上手い説明の言葉が見つからないうちにあかりはとうとう怒り出した。
     「そりゃ、ひかるはすごいよ。テレビにも映っちゃうし。どんどん強くなっているし。
      もう社会人だし。指導碁とかで大人の人に教えちゃったりしているし。」
     うーと睨みつけてくる。

     「でも、私にだっていろいろあるんだからね!
      そりゃ、ひかるに比べたらたいしたことない悩みだと思うけど」
     ふん!ってそっぽを向いてしまう。
     「あかりー。そういう意味じゃないんだって」


     どうしよう、さっきまで笑っていたのに・・・



               
               
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