後悔・・・
◆ 少年の場合 ◆



「部長・・・・」

目の前で後輩が不安そうな瞳と声を俺にかける。

手には企画書が・・・

「大丈夫だ・・・」

そう返事をしながら、俺は一年前のことを思い出す。

やっぱり・・・





どうも藤崎がやっと片思いを実らせたらしい。

で、相手というのが。今目の前にいる

「今日はどうもありがとうございました。進藤プロ」

まだ文化祭は終っていないが、とりあえず進藤プロの指導碁コーナーは終った。

でも、何か考え込むように真剣な顔をしている進藤プロ。

「あの、何か?」

進藤プロは何か複雑そうな顔を俺に向ける。

「なんか、あかり見ている男性客がいませんでした?」

「は?」

それは、いただろう。他校の囲碁部でもけっこう有名になってきているし、校内にもファンがいる。

「俺もなんか見られているような気が・・・」

進藤プロのことは藤崎が連れてきた男ってことで実は校内で話題になっている。

プロが来たってことよりそっちの方が大事件だ、男性側では。

確認しに来た男子生徒が沢山いたし、2人が仲良さそうなのを見て、ショックを受けているやつも、

進藤プロを睨みつける人もいた。

「それはまあ、いたでしょうね・・・」

それで、指導碁の合間とか休憩時間とかたまに何かを考えるようなそぶりをしていたのか。

進藤プロは肯定した俺を不思議そうに見返してきた。

「なんで?」

囲碁好きな人に見られることはあっても、関係ない男子生徒から睨まれたり、

羨望の眼差しで見られる心当たりがどうもないらしい。

藤崎はすごくもてるんです。というひと言を言おうとした瞬間、校内放送が響く。




「2年5組。藤崎あかりさん!中庭に降りてきてくださーい!!」

俺たちは顔を見合わせて廊下から中庭を見下ろす。

藤崎は今クラスの方に行っていてここにはいない。

中庭では二年生のクラスが出し物をしていた。

さっきから、生徒がマイクを使って、主張だの、夢だの、告白だのしている。

某番組のパクリである。

で、一人の男子生徒が台上に立っているのだが・・・・

「何あれ?」

進藤プロが不思議そうに指差す。

「告白でもするんじゃないですか?」

進藤プロはますます目を丸くする。

「あかりに?」

「多分」

「あかりは俺の彼女だけど・・・」

「まあ、みんなまだ知らないし。藤崎かなりもてますしね。お祭ですから大目に見てください」

「あかりもてるの?」

「ええかなり」

俺がそう言うと、進藤プロはビックリしてパクパクと何か言いたげだが、言葉が出てこないらしい

何て言う気だろうとしばらく観察していれば。

「あかりがー!!なんであかりなんかが・・・・」

なんか・・・・ですか?

少々、カチン!ときたのは致しかたないだろう、この場合。

「藤崎もてますよ。さっきだって、藤崎目当ての男性客けっこういたじゃないですか」

そう言えば、進藤プロは少々青ざめているようだった。

「だって、あかりだぞ・・・」

「ええ、かわいいですからね」

にっこり笑えばますます青ざめる。

下を見れば、状況を理解した他の男子生徒が告白を阻むつもりか自分も告白するつもりか

ぞくぞくと集まり始めて。

「ああ、藤崎ファンが集まりだしましたね」

進藤プロはそれこそ何も言えないって感じで中庭を食い入るように見つめている。

「さすが、藤崎ですね。高校入ってから告白者通算何十人になるのかな、これで」

50は超えるだろうなーと呟くと、「うそだろう」とさらに青ざめる。

そして、進藤プロは慌てて中庭へと走っていった。





中庭にたどり着いた進藤プロはなにか怒鳴り散らし、

宥めようとする藤崎に何かを言って無理やり退場させようとした。

そして、止める司会者を振り切り、嫌がる藤崎を最終的には担ぎ上げて強引に引き上げたのだ。





俺は騒然となっている中庭を少々呆れながら眺める。

脅しすぎたか?と少し罪悪感もない訳ではないけど。

俺だって、50人の数に入っているんだ、これくらい言わせてもらわないと。

「これくらい許されるよな」

俺は微かに笑ってそう呟いた。





そして、それからの一年。

進藤プロは若手の中ではかなり忙しいはずなのに、時間を見つけては指導碁に来てくれた
(依頼してなくてもふらりとやってくる)

先生達はプロが来てくれるなんて!と無条件で歓迎している。

もちろん俺たち部員にしてみても、プロが指導碁に来てくれることは(しかも無料!!)

有り難く、嬉しいことには違いない・・・・が。




「あかり♪」

と言って休憩のたびに藤崎に近付き、二人の世界を作り出す。

藤崎の手を握るなんて甘い話じゃない、部員達の前で堂々と藤崎を抱え込む。

「ヒ、ヒカル!」と藤崎が抗議の声をあげても

「いいじゃん、俺たち付き合ってるし」とにこにこと答える。

まあ、進藤がそこまでする時には必ず藤崎狙いの男がいるときだけど・・・

つまり、進藤はせっせと牽制のために来ている訳で。

お陰で当時いた男性部員数名と今年春入部の部員の半数が辞めてしまった・・・

当然、その部員達は藤崎ファンと進藤ファン。

雑誌に載りだした進藤には普通にファンがいて、憧れて入部した女子部員は、失望して辞めていく。

動機はともあれ折角の部員が・・・

指導碁は真面目にやってくれるけど、あのイチャイチャぶりは・・・・

そして、進藤のあの独占欲の強さ。藤崎ねらいの男を睨む時の瞳。



そして現在・・・

目の前には碁が好きで残った部員達。

それぞれに不安を抱いた顔をしてたたずむ。

「・・・大丈夫でしょうか?」

大丈夫か?そんなもの大丈夫にするに決っている。

「とりあえず、進藤には内緒だ。当日まで隠し通そう」

その日が来てしまえば、なんとでもなる。

藤崎は俺たち側だ。

「藤崎がいるから大丈夫だろう・・・」

他力本願な自覚はあるが、これが進藤には一番効果的なのだからしょうがない。

「・・・・・先輩〜」

不安そうな後輩の声。

脳裏によぎる進藤の瞳。

「やるしかないんだ。・・大丈夫だ」

殴られる覚悟ぐらいはしておいた方がいいかもしれない。

不安そうな視線を感じる中、俺は小さくため息をついた。

脳裏に浮かぶは、一年前の光景。

脅しすぎた・・・・

そしてまた一つため息をつき、俺は苦笑して後輩に向き直る。

「さあ、準備に取り掛かろう」

あと少しで文化祭。

脳裏に藤崎の困ったような笑顔が浮かんでくる。

心の中で、藤崎に謝りの言葉を述べた。

一番大変なのは、藤崎だろう。

悪かったよ、藤崎・・・




あー、やっと来ましたここまで。 というのは後で。 進藤君があかりちゃんが2年生の時の文化祭で何をやったかというお話です。 私のオリジナルキャラの佐々木君にも登場願いました。 わかります?彼は「笑顔」と「憧れの存在」にも登場しております。 さて、テーマは「誕生!!焼もち心配症な進藤君編!!」 これは前半ですので、後半にも続きます。 一応、私の中で進藤君にとってあかりちゃんは 「女の子」といより「あかり」なので外見とかはあまり気にしてなかった という設定です。 だから、あかりちゃんが他から見て一般的に可愛い外見というのも考えたことがなかった・・と。 そして、他の男からもてるなんて思ってもみなかった・・・と 指摘されてびっくり仰天!!という訳ですね。 まあ、「俺の幼馴染!!」と言い張っていた進藤君(私設定)なので、 焼もちやきの素質十分だった訳ですが・・・(^_^;) さて、後半ではまた別の人にも登場願います。 思いっきり脅してもらう予定です(^.^)

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