夏祭

「だれが最初に言ったのかは覚えていないが、いつのまにか夏まつりに行こうという話になった。
たまには気を抜いて遊ぼうということになったのだ。
だから当然、彼にも声をかけたのだが・・

「んー、どうしようかな」
と意外にも気乗りしない返事が返ってきた。お祭とか好きそうなのだが。
「あ、いや祭がいやなんじゃなくて。幼馴染のやつといつも一緒に行ってるからさ」
彼はちょっと考えた後、いいこと考えたとばかりに言ってきた。

「なあ、その幼馴染連れて来てもいいかな。あいつもさ、囲碁やってて。ああ、めちゃくちゃヘボだけど。
みんなと会いたいって言ってたからさ。奈瀬も来るんだろ?特に奈瀬に会いたいって。いいかなあ?」
まあ、そこまで言われて断る理由も無かったし、別にいいかなと思ってオッケーを出した。

そうしたら、あいつも良かったと嬉しそうに笑ってた。
どうやらその幼馴染とは、幼稚園の頃からの付き合いらしく、囲碁教室にも一緒に行き、中学も一緒に囲碁部に入ったらしい。
ただ、残念なことに彼ほど囲碁の才能には恵まれなかったようで、ごく普通の高校生を今しているようだ。
彼は院生になってから学校の囲碁部とは疎遠になったといっていたから、それでも交友が続いていると言うことは、
かなり仲の良い親友なんだろうな、と思う。

それに奈瀬は先日、囲碁雑誌に美少女院生として乗ったので一部の囲碁少年の間でアイドルになっているらしいじゃないか。
なるほど、その幼馴染君が会いたいというのも判るか。
そんな、話を奈瀬にしたら、なんか嬉しかったらしい。
「へー、じゃあ浴衣とか着ちゃおうかな」なんて言っていた。

当日、案の定進藤のやつは遅刻していた。彼をまっている間、話題は何故かその幼馴染の話になった。
「進藤とずーと親友やっているんだろ?大人しいじゃないか?」
「いやー、逆に進藤以上に元気な子とか」
「ねえ、私に会いたがっているんでしょ?かっこいい子だといいなー」
おーい奈瀬、年下でもいいのか
進藤の幼馴染・親友・囲碁をやっている。そんな情報で俺達は完全に勘違いしていた。
進藤の幼馴染は当然 男 だと。

その間違えに気がついたのは、進藤が待ち合わせ場所にきてからだ。
祭のせいか、その場所はすごく混雑していて、
進藤が「わりー」と少し離れたところから声をかけてきたときにはまだその幼馴染は見えなかった。
だけど、彼が近づいてきてわかったのだ。進藤が左手でしっかりと掴んだ手の先には、
綺麗な白地に花柄の浴衣を着た美少女がいて、彼に引っ張られるようにして歩いていた。

「わりー、こいつがさー仕度に戸惑った上に歩くのとろくて」
「あ、あの、すみません。遅れてしまって・・・」
赤くなって恥ずかしげに誤りながら頭を下げているのは、どっからどう見ても少女以外の何者でもなくて。
しかもかなりの美少女で、大きめな瞳が印象的だった。

「あ、あの、進藤・・・・。幼馴染って・・・」
俺は、やっとの思いで疑問をぶつけてみた。
「ああ、こいつ。藤崎あかりっていうんだ」
やっと手を離した左手で少女を指差す。

「始めまして、藤崎あかりです。今日は私までご一緒させていただいてすみません」
進藤の幼馴染にしてはすごく礼儀正しい少女だ。信じられない。
「あかり、この人が和谷で、伊角さん、本田さん、越智、で、奈瀬」
びっくりして、ぼーぜんとしている俺達をよそに進藤は彼女に俺達の紹介をしていた。
しかも「あかり」って呼び捨てしていなかったか?

藤崎さんは一人一人頷きながら、覚えているようだ。奈瀬の紹介の時には嬉しそうに聞いていて
「お会いしたかったんです。同じ女性なのにすごいなって。私は囲碁やっているんですけど、
 全然強くなくて。応援してます、頑張ってくださいね」
にっこり笑顔で奈瀬に話し掛けていた。文句なしにかわいい。
「そうなんだよ、指導碁やってやってんのに、全然強くなんないんだぜー、こいつ」
むぅっと進藤をにらむ顔もかわいい・・・

「・・・・始めまして、奈瀬です。進藤の幼馴染がこんな可愛い女の子だなんて思わなくてびっくりしちゃった。
 今日は着てくれてありがとう。女の子どうし仲良くやろうね」
「はい」
驚きから立ち直ったなせは、非常に機嫌よく、藤崎さんの手をとって嬉しそうに話し掛けた。どうやらいたく彼女を気に入ったようだ。

「指導碁なら今度私がやってあげるわ。」
「本当ですか!うれしい」
藤崎さんも嬉しそうに笑っていた。が、そのわきで何故か進藤はちょっとムっとしているような。
焼もちか?なせは女だぞ。が、待てよ、そうなると幼馴染じゃなくて、彼女なのか?進藤にー!

その疑問は越智が聞いてくれた。
「進藤。藤崎さんって彼女?」
さすがだ、越智。ストレートだ。

二人してびっくりした顔をしたかと思うと、一気に真っ赤になって違う違うと首を横に振った。
「へっ!?違う違う。ただの幼馴染だって。そんな訳ないじゃん」
「違うんです。あの、ホント幼馴染で」
「ふーん、仲良さそうだけど」
「そりゃ、幼稚園のころからの付き合いだし」
 
藤崎さんまでちょっと困り気味に苦笑している。彼女じゃないんだー、もったいない。
なんて感心している場合じゃないぞ、助けないと、と思っているところに伊角さんがにこやかに助け舟をだしていた。
「人数そろったみたいだし、そろそろ行こうか」と
「そうだな、早く行かないとますます混むから」
そうだ、今日は祭に行くんじゃないか!気を取り直して方面に歩き始める。
が、そんなときだ。こいつら本当にただの幼馴染なのか?

「ほら、あかり。行くぞ」
そう言って進藤はごく自然に左手を藤崎さんの方へ出すと、藤崎さんもごく自然にその手を取った。
思わず、呆然と眺めてしまった俺達に気づいた進藤が慌てていい訳めいたことを言う。

「あ、これは、こいつ手離すとすぐはぐれちゃうんだよ。それにこんなかっこしているからこけるし。だからだよ!」
「は、はぐれるのは、ヒカルがいっつもすぐどっかに走って行っちゃうからだもん」
「ついてこない、あかりが悪いんだろう!」
「浴衣じゃ走れないの!」
「じゃあ、浴衣着なきゃいいだろう」
口げんかをしつつ、手を放す気はないらしい。

「まあ、とりあえず行こうか。進藤も急に走り出したりするなよ」
伊角さんがとりあえず二人をなだめて、場をとりなす。もしかして今日は思ったより大変な一日になるのだろうか?
結局、進藤は彼女の手をしっかりと握ったままお祭会場まできた。



長い文章となりますが、よろしければお付き合いくださいませ
⇒2へ

⇒目次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送