夏祭3

「あかりから離れろよ!! って、あれ? 加賀〜!?」
勢い良く罵声を浴びせようとしたが、途中から勢いが無くなり、どうも進藤の知り合いだったらしい。
それにしても、こんな怖そうなガラの悪いやつをか?

「よー、馬鹿、久しぶりだな」
カッ、カッ、カッと表現したいような笑いと共に加賀という男は進藤に向き直った。
「あ、進藤君久しぶりだね」
その後ろから、今度はこの男とは正反対にいたって真面目そうな少年が声をかけてきた。

「あれー、筒井さんもどうしたんですか?」
進藤が今度はうれしそうにその少年に駆け寄ろうとした、のだが・・・
「おい、進藤。どうしたじゃないだろう」
「は?」
「礼を言え、礼! お前のかみさん助けてやったんだからな。
大体、この二人だけにして置くのは、ナンパしてくれって主張してるもんだろう」
「そうだよ、進藤君。だめじゃないか。女の子二人だけだなんて」
「へ?」

進藤も俺もちょっと事態が掴めないでいたら、藤崎さんと奈瀬が事情を説明してくれた。
ようは、しつこいナンパ男を追い払ってくれたらしい。
「通りかかったら、知った顔が困ってたからな」
加賀って男がそう言った。

「あ、すみません。ありがとうございました」
俺は素直に頭を下げる。
「ごめん。ありがとう、助かった」
進藤も続いて頭をさげたのだが。進藤の場合はそれだけではすまなかったようだ。

「進藤。それだけか? かみさんを助けてやったんだから、もう少し誠意みせろ」
にやーって笑って、加賀という男は進藤の頭に手を置いた。
「誠意ってなんだよ!」
手を払って憤然と言い返す
「そうだなー。まあとりあえず貸し一つってとこかー」
貸しー!と進藤はげーという顔をしている。恐らくは貸しを作ると怖い男なのかも。

まあまあまあ、と男とは正反対のタイプの筒井さんという少年が二人を宥めに入っている。
奈瀬に聞いたのだが、どうも二人は進藤の中学の先輩らしい。
「おー、筒井。丁度良いじゃないか。お前礼に指導碁頼め」
「え!」
二人して、指導碁という言葉に反応する。

「進藤、いいよな。かみさん助けたお礼に指導碁来い」
「いや、加賀。大したことしてないんだし。そんな進藤君に悪いよ、忙しいだろうし」
筒井という人はちょっと戸惑いつつそう答えた。
「筒井さん、良いですよ。筒井さんにはお世話になったし」
本当に?と言って筒井さんは嬉しそうに笑って、じゃあと進藤と連絡先等を交換していた。

そんなことやっているうちに、遅れていた越智や伊角さんが戻ってきて、事情を説明する。
それにしても、さっきから「かみさん」という言葉が自然にまかり通っているんですけど。

俺と奈瀬が皆に事情を説明して、進藤が筒井さんと話して。そうすると自然に加賀と藤崎さんが話すことになる。
相変わらず、藤崎さんは可愛らしい笑顔で愛想良く話しているのだが、進藤がそれに気づいた。

「あー、加賀。何、あかりに触ってんだよ」
加賀の手が藤崎さんの腕を掴んだからだ。と、言ってもなれない下駄のためバランスを崩した藤崎さんを支えたためである。
進藤はずかずかと二人に近づいて、藤崎さんの腕を掴んだかと思うと思いっきり自分の方へ引っ張った。
自然、彼女はバランスを崩して進藤に倒れ掛かる。

「加賀の性格があかりにうつったらどうしてくれんだよ」
「進藤、何か俺は病原菌とでもいうのか!」
「あー似たようなもんだろ!」
「俺は先輩だぞ!敬え!!」
「うるせい!加賀は先輩じゃねー!俺の先輩は筒井さんだけだよ!!」
加賀対進藤の不毛な口論が始まっていた。

進藤・・・お前、藤崎さん抱きしめたままだって判ってやっているのか?・・・・・
見ていた誰もがそう思った。
呆然として見ていた所為だろうか?
「あ、すみません。うるさくて。心配しないで大丈夫ですよ。
 あれであの二人は結構気が合うみたいで。加賀も進藤のことは気に入ってるんです。」
にっこり微笑んで、筒井さんが俺達に言ってくれた。なんか、礼儀正しい人だ、本当に進藤や加賀って人の友人なのだろうか?
いやしかし、俺達がびっくりしているのはそっちではないんだけど、筒井さんは気にならないのだろうか?

「ちょっとひかる!!加賀先輩は助けてくれたんだよ!失礼じゃない!!」
しばらく、唖然としていた藤崎さんがはっとしたように、進藤の腕から抜け出て、進藤に対して抗議を始めた。
「すみません、加賀さん。ひかる馬鹿で。ほら、ひかるもあやまりなさいよ!!」
あー、藤崎さん今まで苦労したんだろうなー。俺はふとそんな言葉が頭をよぎる。

「馬鹿ってなんだよ!!大体だなー。お前が悪いんだからな!!いたるところでナンパされやがって!!」
「なっ!!私が悪いんじゃないもん!!」
「お前に隙があるからいけないんだろう!!」
「違うもん!!」
藤崎さんが真っ赤になって言い返している!今度は幼馴染同士本格的に口げんかが始まってしまっている。
しかし、進藤。藤崎さんを怒るな。このかわいらしさだぞ、ナンパはあるだろ、そりゃ。

「あの二人っていつもああなんですか?幼馴染なんですよね、唯の。あれで?」
越智がやっぱりストレートに筒井さんに質問している。
筒井さんは初め質問の意図がつかめないって顔をしていたが、しばらくして納得してはなしだした。
「・・・ああ。そうだね、ごめん。初めての人はびっくりするかな。二人は幼馴染だよ。
僕は卒業してからあまりあの二人にあってないけど、あの当時のままなら、確かに『彼氏彼女』じゃないと思うよ。」
にっこりと笑って続ける。

「ただね、僕は彼らを中学入学前から知っているけど、二人はいつも一緒だったよ。
 二人が二人でいるのが自然だったね。だから、二人の中では一緒にいるのが当然で、
 いまさら付き合う・付き合わないっていうのは関係ないんじゃないかな。
 中学時代も俗にいうカップルじゃないのに、有名公認カップルだったし。」

つまりは、彼氏彼女じゃないけど、付き合っているも同然ってことなんだろうか?
進藤のくせに? とうやと同レベルの碁馬鹿のくせに? こいつにー!!
とみんなして軽くショックを受けているうちに、筒井さんは慣れた調子で進藤と藤崎さんをなだめて。
二人の口論を実に楽しそうに眺めていた加賀さんに何か話し掛けた後、
俺達にまで「お騒がしてすみません」と謝って立ち去っていった。



加賀さん達の一時登場です。
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