お正月 - 1 -





うわー、うわー、うわー。

ヒカルは心の中で歓声を上げる。

目の前の彼女がすごくすごく綺麗で。そりゃ普段だって十分綺麗で可愛いけど・・・

今日は特別綺麗で、着物姿がすごく似合っている。

顔が自然にやけてしまいそうで、赤らんでしまいそうで。

目の前で、あかりが少し照れたようにして立っている。かわいい・・・

あまりの可愛らしさに思わず腕が伸びそうになったその時。





「きゃー!!あかりちゃん。すごく可愛いわ、似合うわ!!」

自分の後ろで母親の悲鳴が聞えた。

そして、母は息子を思いっきり押しのけて少女の前に立つ。

「あけましておめでとうございます。おばさま」

あかりは明るく笑顔で年初めの挨拶をする。

「あけましておめでとう。どうぞ上がっていってね」

かあさんは家にあげようとあかりの手を取った。もう大興奮ぎみだ。

「かあさん。だからこれから初詣に行くんだって!!」

ダメだ、家に上げたらきっとかあさんはあかりをそうは簡単に手放さない。

そうそうに連れ出すのに限る。

案の定、かあさんはすごく残念そうな顔をしていた。

「そうなの。ちょっとぐらいいいじゃない。ケチねーヒカル」

ケチってかあさん・・・・

「そうだわ!!お父さん!!カメラ、カメラ!!」

結局、初詣に出かけられたのはそれから暫くしてからだった・・・・





「あかり、悪い」

ため息とともにあかりに謝る。

母さん結局何枚撮ったんだ?終いには父さんまで携帯のカメラで写真を撮っていた。

待受にしようなんて二人で言っていたような。

妻と息子の彼女のツーショットを待受って、どうすんだよ、まったく。

「大丈夫だよ。おばさまと撮れて私もうれしいし。焼きまわしてもらおうっと」

ニコニコ笑いながらあかりが楽しそうに言ってくれたんだが。

「あれ、そういえばヒカルと撮らなかったね」

「・・・・・・・」

そういえば、母さんと声をかければ、もう少しだからとか何とかって押しやられて、

結局壁際で大人しく待っていたんだっけ?

「帰ったら撮ってもらうか」

「うん」

俺の隣でにこやかに笑って答えるあかりはやっぱりめちゃくちゃ可愛くて。綺麗で。

「ほら」

歩きづらそうなあかりに手を差し伸べる。

「大丈夫か?」

なんか、いつもより優しさ倍増な気分だ。

いや、いつもだって優しくしているけどさ。




『女の子には優しくしなきゃダメですよ』

昔言われたせりふが頭をよぎる。

大丈夫だって、判っているって。

やさしくする。もう失いたくないから。大切にする、ずっと一緒に居たいから。

大丈夫だよ。




「大学、受かるといいな」

「うん。頑張るね」

本当は大学なんて別に行ってもらわなくてもいい。

別に学力なんて必要ないのに。どうせ・・・・

そう思うのだけど、そう言ったこともあるけど。

でもやはりあかりは大学に行きたいみたいで、だったら俺にはもう止められない。

あかりには好きなことをやってもらいたい。あとで後悔したくない、あの時みたいに。

「今日は、俺も一緒に神様によーくお願いしてやるよ」

「え!ヒカルはヒカルのお願いでいいよ」

「俺は神頼みなんてしないからな」

得意げに言ってみた。

「うっ!どうせギリギリですよー。」

あかりが小さく舌をだす。

「お前、ギリギリなの?」

それってまずくないか?

「頑張るもん。大丈夫」

ググッと空いている手を握り締めるあかり。本当に大丈夫なんだろうか。




「あかり!いいか、絶対に東京の大学だからな。東京の!!」

大学にあかりに進学するのは構わない。

だけど、これだけは譲れない。

「絶対!東京の大学!!通えるところだからな!!」

あかりはあきれたような顔を俺に向けてから、小さく笑って頷いた。

いいよな、これくらい主張しても。

『やさしくしないと・・』

わかっているけど、だけど。なあ、これくらい大丈夫だよな。

「よし!!今日はお賽銭奮発して祈ってやる!!」

俺がそう言うと、あかりは楽しそうに暢気に笑ってた。



一応、お正月ネタ。 おかあさんにも登場願っちゃいました。

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