始まりの少しだけ - 3 - 



「こいつ連れてくから」そう言ってヒカルは私の腕をつかんで喫茶店から連れ出した。
そしてそのまま無言で足早に歩き出す。

「ヒ、ヒカル!待って、早い」
ヒカルは痛いと思うほど強く腕をつかんで、引っ張るように足早に歩くから
私はそのペースに合わせるのに殆ど軽く走っている状態だ。
先ほど連れ出される前にみたヒカルの表情は明らかに機嫌が悪そうだった。
というか確実に怒っている。
でも、何故・・・・?
ヒカルを怒らすようなことを私はしただろうか?
そうじゃなくて、もしかして・・・



「ヒカル!待って!・・手も痛いの」
手が痛いと伝えて、始めてヒカルは足をゆるめて振り向いた。
少し決まり悪そうな表情をした後、少しだけ手の力を緩める。
でも、離してはくれなかった。


「ヒカル、怒ってるの?」
恐る恐る聞いてみる。
「・・・・・・」
「あの、先生・・・・・ダメだったの?」
だから機嫌悪いのかな?と思って聞いてみた。
あまりこういうことは聞くべきじゃ無いのかもしれないけど。
だから、恐る恐る伺うように・・



「・・・・・」
だけど、どうもやはり触れちゃ不味かったみたいで、ヒカルの顔がますます機嫌悪そうに歪む。
というか、とにかくめちゃくちゃ怒ってるみたい。

「あの、その・・・・ごめん」
たぶんヒカルは振られてしまったんだ、そう思った。
そして思うと同時に安堵感。卑怯な自分に微かに嫌悪感を感じる。
「何がごめんだって」
ヒカルの低い声が響く。

一瞬、自分のこの卑怯な心を見透かされたような気がした。
「あ、その、変なこと聞いちゃって・・・」
ごめん。傷ついているヒカルに失礼だ。
「・・・・お前、何考えてるんだか全然わかんない」
ヒカルは本当に機嫌悪そうだった。でも、私の考え?


「?」
「俺と先生二人きりにしてどうするつもりだった?」
「どうって・・・」
「俺と先生が上手くいけば良いとかって思ったわけ?」
怒った顔をして真正面から見つめてくるヒカル。握ってくる手にさらに力が加わる。
「だってヒカルは・・・」
ヒカルは先生が好きだから?ヒカルのために・・・なのにどうして?


「そうだよなー。先生はすごい美人だしなー。俺の理想そのものだし。
大人で色っぽいし。しかも優しくて女らしいし。あかりとは全然違うもんな」
ヒカルの口からそんな風に先生を褒める言葉なんて聴きたくは無いのに・・・
「さっきもさ。二人っきりになったら先生いつもと感じ変わってて。
なんか凄く色っぽく笑うんだよな。ああいうの妖艶な微笑みって言うのかもな」
ヒカルの顔が見られなくて俯いてしまう。


「デートに先生から誘ってくれてさ」
「!!」
思わず顔を上げてしまった。だってヒカルは振られてしまったんじゃ。
先生から誘われた?まさか・・・、だって・・・
さっきまでの安堵感が急速に小さくなり、不安と焦燥感が心を支配し始める
「そのときの先生の声なんかゾクッとするほどだったよ」
「・・・・・」
ヒカルを見上げた瞳が少しずつ潤んできてしまう。ダメだ、泣いたらダメ。
ヒカルはそのままジッと私を見つめたまま、私の返事を待っているようだった。



「そう、よかったね」
無理やり押し出すように声を絞り出す。上手く笑えていたかどうかわからない。
「・・・・・・」
なのにヒカルは何も言ってきてくれない。
ヒカルの視線に耐え切れなくて、ヒカルから顔を逸らした。



「何で・・・・・」
ヒカルが低く呟くように問いかけてくる。
「何でそんな顔するぐらいなら、あんなことしたんだよ」
「え?」
何を言われているかわからなくて、思わずヒカルを見上げる。
怒りを湛えた真剣な瞳で私を見つめていた。


「あんなって・・」
「さっき泣いていただろう!だったら何であんなバカなことやっているんだよ!!」
怒りのためか声を荒らだてる。


「俺が先生と付き合えば良いと思ったわけか!!」


「あの・・」
ヒカルが凄く怒っている。でも理由がわからなくて、あまりの剣幕に怖くって。


「しかも、よかったね、だと・・・。くそ!お前、訳わかんねー。何考えてんだよ」
怖くて、ヒカルの顔が見ることが出来なくて、ビクビクと震えてしまう。
とにかく自分がヒカルを思いっきり怒らせてしまったということだけは、頭のどこかで理解していた。


「ご・・・・ごめんさない」
小さく震える声で謝りの言葉を紡いだ次の瞬間、グィッと腕を強く引っ張られた。


「え?」と視線を上げると目の前にヒカルの顔があって。

「え!ひゃっ!キャーッ!!」
思わず思い切りヒカルを押しのけてしまった。

い、今。何が起ころうとしていた?
ヒカルの顔がやたらと近くにあって・・・
え?何?何だったの・・・?



良くわからない状況にパニックに陥った状態で恐る恐る瞳をヒカルに向ける。
「・・・・・あかり、お前なー」
ヒカリは相変わらず非常に不機嫌そうな顔をしたまま、私を見つめて。

そして大仰にため息をついた。




まだまだ続きます。

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