始まりの少しだけ - 4 - 



焦る気持ちに押されるように学校を飛び出したところで、立ち止まる。
あいつはどこだ?
携帯を出して呼び出そうとしたけど、そこで思い出したことがある。
あいつらはやたらと、話すんだ。そりゃこっちがびっくりして呆れるぐらい。




いつだったか、俺が男子生徒たちとゲーセンに寄るから一緒に帰らなかったことがあった。
そして遊んで帰った後、帰り道あかりのおばさんに「あら?一緒じゃないの?」と聞かれた、
つまりあかりはまだ帰ってきていなかった。


そんな馬鹿な・・・・。
一瞬目の前が暗くなる。
俺がどれくらいの時間遊んでいたと思う?帰ってきていないなんてありえなかった。
おばさんは「どこで寄り道しているのかしらね」とのんきに笑っていたけど、俺は笑うなんて出来なくて。
きびすを返して来た道を戻る。
何かあったのかもしれない。なんで俺一緒に帰らなかったんだ?
あたりはすでに暗くなり始めていた。
焦りながら、微かに震える手であかりの携帯に電話する。そうしたら・・・


「ヒカル。どうしたの?」


あかりの馬鹿にのんきな声が耳元で聞こえた。ドッと体から力が抜ける。
と、同時に苛立ちが募る。
「どうしたじゃないだろう!お前今どこだよ!まだ帰ってないってどういうことだ。おばさん心配しているぞ!」
そう思わず怒鳴りつけると、「え?えー!!もうこんな時間!うそー」そんなあかりを含めた数人の声が聞こえた。
「ご、ごめん。すぐ帰る」


つまりは、おしゃべりしてて時間を忘れていたらしい。
って、何時間おしゃべりをしていたのだろうか?うそ、というのは俺のセリフだ。
その日はイライラしながら駅まで迎えにいって、盛大に文句を言ってやった。
「俺が指導碁行った日に何やっているんだよ。何かあったら俺のせいになるだろう!」
我ながら身勝手なセリフだが、体が震えるほど心配させたんだから当然だ。



とにかくあいつは、いやあいつらは良くしゃべる。
プライバシーって言葉を知っているのだろうか?というほどなんでも良く話す。
だから絶対今日もどっかで、しゃべっているに決まっている。
で、この頃お気に入りと言っていた、店がたしか・・・・



そう思って、その店に行ってみれば案の定あいつ達がいた。
店の中に入って、店員が何か言ってくるのを無視してまっすぐにあいつに向かっていく。
「大丈夫なの」
そう言って、笑っていたけど。
声は全然笑っていなくって。
瞳は当然笑っていなくって。
その大きな瞳からは堪えきれない涙が溢れ出ようとしていた。




そんなあかりを見ても、俺の中に芽生えた感情は。やはり怒り、苛立ち。
だったら何で!意味が、考えていることがわからない!

でもとにかくここであかりを泣かしておく訳にも当然いかないし。
第一このままにして置けない。
だから、あかりの腕をつかんで無理やり連れ出した。





苛立ったまま、無言であかりを引っ張りながら歩く。
あかりには早すぎるペースだとはわかっていたけど、どうしても苛立ちのためかスピードを緩めることができなかった。
早く帰る。帰って何でこんな馬鹿な真似したかを聞き出してやる。
俺が先生と上手くいけばいいと本気で思っていたのか?泣くくせに?



考えれば考えるほど、頭にきた。だって当然だろう。だってあかりは・・・・



「痛い」と言われて、やっと俺の頭は落ち着いたのかもしれない。
足を止めて、あかりの腕を掴んだ手を少しだけ緩める。
でも放すつもりはなかった。




「怒ってるの?」
あかりが恐る恐る聞いてくる。当たり前だろう!!という言葉を無理やり飲み込んだ。
理由はそのままあかりを一方的に怒りつけそうだからだ。
俺が何とか怒りを静めて落ち着こうとしていればよりによってあいつは。
「ダメだったの?」

お前・・・・・・やっぱりそのつもりで俺たちを二人にした訳か。
ますます怒りが沸きあがり、俺は自分の顔が思いっきり不機嫌そうに歪んでいるのを自覚した。
ヒクヒクと頬が引きつる。

「ごめん」
あかりは脅えるように謝ってきたけど、俺はそんな言葉を聴きたいわけじゃない。



何であんなことをしたかだ!
何を考えているのかだ!
こいつは全然わかってない!
こいつがまったく解らない!
第一、こいつは俺を・・・・



何考えているかわからない、と言えば。
あいつは何を言われたかわからないって顔をした。
どうして二人っきりにしたんだ?と聞けば、どうも俺が先生を好きだかららしい。



何でお前までがそう思うんだ?
そりゃ、俺は浮かれていたかもしれない。
だけど、なんでお前まで。
それと、これとは違うだろう。全然違うだろう?
お前がどうしてそう思うんだ?

「はっきりしないんだもの」先生の言葉が頭を過ぎる。
俺が悪いのかもしれない。でも、だからって・・・・

俺は頭にきていたから。
あかりがあまりにも小さく脅えていたから。
あかりまでもがそう思っていて、しかも俺と先生とのことを後押しするようなことをするから。
だからだったのだろうか?
まるで俺と先生が上手く言ったように話してみた。



あいつは初めびっくりして信じられないという顔をした。
そして次第にその顔に不安と悲しさが浮かび。その瞳は何よりも感情を表していた。
いつもだ、あかりの大きな瞳はいつも感情に溢れている。
そしていつもその瞳を俺に向けていた。


あかりはその悲しみを浮かべた瞳で俺を見つめ、必死に涙を堪えている顔で無理やり笑顔を作り、
「よかったね」と無理やり押し出すように微かに震える声で言った。



よかったね・・・・



その顔で、その瞳で、その声で、その言葉を言うのか?




頭にきて、あかりにきつい言葉を投げるとあかりはビクビクと震えて小さく謝る。
違う、怖がらせたい訳じゃない。
「はっきりしないから・・・」先生の言葉が頭をループする。



怯えたあかり。
震える手を無理やり自分の方へ強く引っ張る。
正直、自分でも何をやっているかしっかり理解していたかは不明だ。
「なら、はっきりさせればいいんだろ!」と半分はやけくそだった。
とにかく、近づいたあかりの顔に自分のそれを近づける。



だけど。
あかりはいきなり悲鳴を上げて、俺を突き飛ばした。
お前・・・俺が折角・・・・、なのに拒むのかよ・・・
あかりのその行動に始めはカーと頭に血が上り、ますます苛立った。
もう一度手を伸ばして今度こそ逃げられないようにしてやろうか!とも思った。



だけど、目の前で目を白黒させて、何?何?と必死に現状を把握しようとしているあかりを見ているうちに、
頭の中が少しずつ落ち着いてくる。



そして、なんだか苛立っていたことが馬鹿らしくなってきた。
あかりは今でも目の前に、手を伸ばせば届く距離にいるじゃないか。
混乱しつつも大きな瞳を俺に向けているじゃないか、いつもの通りに。



微かに苦笑した後、俺は盛大にため息をついた。
結局やっぱりこいつにはまだ早いんだ・・・
だたそれだけだ。こいつの瞳はいつでもまっすぐ俺を見ているのだから。




両方の視点からという構成に初挑戦です。

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