慌てるあかりを見ている内に、ムクムクと悪戯心が浮かんでくる。
俺も大概にしておかなきゃ不味いんだろうけど・・・・
「まったく、お前さー。もう少し女らしい反応出来ない訳?」
「え?え!何?」
目の前でオロオロするあかり。
「先生だったら、もうちょっと女らしい反応するぞ、絶対」
わざとため息をつく。あんなことをされたんだから、多少仕返ししてもいいはずだ。
「な、何よ!!」
「折角だから、先生に教えてもらえよ。いい女になる方法をさ。ま、あかりじゃ、たかがしれてるだろうけど」
そしてにやーと笑ってやる。
「ひ、ひどい!失礼でしょ!!」
「事実だしなー。先生とあかりじゃなあ。でもあの先生に教えてもらえば多少はあかりでも女らしくなるんじゃねぇ」
にやにや笑って言えば、あかりは顔まで真っ赤にして怒りだした。
「言ったわねー!見てなさいよ、後悔しても知らないからね!!」
「後悔?なんで俺がそんなのする訳?」
「絶対、先生よりも綺麗で女らしくなるんだから!!」
「へー、そりゃ大きく出たな」
「そして絶対!ヒカルに後悔させるんだから!その時になって謝ったって遅いからね!」
悔しそうに俺を見つめる瞳には微かに涙が浮かんでる。ちょっと遣りすぎたか?
「だから、どうして俺が後悔しなきゃなんないんだよ」
「だから!!私が先生より綺麗ないい女になるの!ヒカルなんか後悔するのよ!!!」
切れて怒るあかり。だけど・・・
「へー、楽しみだな」
俺はにっこり笑う。
「だから!!」
あかりが続けて何か言おうとしていたけど、俺はそれを遮るように言葉を続ける。
「俺のために綺麗になってくれんだろう?」
「え?」
あかりは目の前でびっくりという風に目を見開いて固まっている。
そして、しばらくしてからかぁぁーと怒りのために赤かった顔が別の意味でますます赤く染まる。
「だから、俺のために綺麗になってくれるんだろう?」
俺がにっこり笑ってもう一度言うと。
「な、何でヒカルなんかのために!」
あかりは硬直から何とか立ち直り、慌てて言い返してきた。
「あれ?違うのか?」
違うはずはないのだ。
「う、うぬぼれないでよ!ヒカルのためな訳無いでしょう!」
「へー、じゃあ、誰のため?」
クツクツと笑ってそう言うとあかりは詰まったように、ちょっと目を泳がせる。
「自分のためなの!!」
だけど、それじゃ同じことだ。
「ふーん。でもあかりが綺麗ないい女になってくれるならどっちでも同じことだろう」
真っ赤になっているあかりを笑顔で見下ろす。
将来の楽しみが一つ増えた。
だって、どうせその時も俺はそこに居るはずだから。
あかりが綺麗になっていくのを一番近くで見ていられるはずだから。
赤くなり何も言えなくなって硬直しているあかりに、今度はゆっくりと身をかがめて頬に顔を近づければ、
彼女はビクッとして微かに震えている。
手を見ればギュッと何かを堪えるように固く握り締めているみたいだ。
だから・・・
「期待してるよ」
ただ耳元で囁くだけで身を離す。
そうすると、彼女は赤い顔をさらに赤くしてますます硬直するように固まった。
そんなあかりを眺めながら俺は満足げに笑った。
と、いうよりどんどん楽しくなって。
とうとうケラケラと笑い出してしまった。
「あかり、顔真っ赤」
思わずお腹を抱えて笑い出してしまう。
それほど、あかりの真っ赤に緊張した様子が可笑しくて、あかりらしくて。
ここまで見事に硬直されたら手を出す気になるわけ無い。
「だって、ヒカルが!!」
あかりが慌てて抗議の声を上げるけど、それもいつもよりも力が無い。
「俺が何?」
ずぃっと近づくと、あかりはずずっと後ずさる。
「だって・・・・・」
お前なー逃げるなよ・・・と思いつつも、かぁぁーとなる様子が可笑しくて、思わずさらに笑ってしまう。
「な、何で笑うのよ!!」
今度は泣きそうな顔で抗議してくるけど、あかりの反応が楽しいのだからしょうがない。
「わりぃ、つい」
にやけてしまう顔を無理やり引き締めて、あかりに目を向ければ。
あかりは機嫌をそこねたらしく、プイッと瞳を逸らす。
そんなあかりを見つめながら、俺は小さく笑う。
今はまだ、このままでもいい。
彼女の瞳は変わらずそこにあり、俺に向けられているのだから。
「ほら、帰るぞ」
そして俺はゆっくりと彼女に手を差し伸べた。
彼女の手が俺に伸ばされることを、疑いもせずに。
そして・・・
ゆっくりとその手に重ねられた柔らかい手をしっかりと握り締める。
ただ、いつもとは違う方法で。