始まりの少しだけ - 6 - 


な、何が起こった訳?ヒカルの顔がいきなり近づいてきて・・・

ある一つの可能性が浮かんできたけど、いや有り得ないはずだった。だってヒカルは・・・

見上げればヒカルは盛大にため息をついた後、私をジーと見下ろしてきている。

とりあえず、何故か怒りは収まってきたみたいだけど。

だけど、何か代わりに悪戯っぽい表情が浮かんできているのは気のせい?



「まったく、お前さー。もう少し女らしい反応出来ない訳?」

え?何?何言われたわけ?女らしいって、だって、さっきのはやっぱり?でも・・・

「先生だったら、もうちょっと女らしい反応するぞ、絶対」

思わずヒカルの顔を見返す。何?また先生を引き合いに出すわけ?いくら先生が素適だからって・・・

しかもヒカルはその後、「先生に教えてもらえ」って言ったのだ。もちろん女らしくなるために。

悔しくて、悔しくて涙が出そうだった。なんでよりにもよって先生に教えてもらうの。それをヒカルが言うの。

しかも私じゃたかがしれてるなんて、ひど過ぎる。

どうして好きな人にそんな事を言われなくちゃいけないのか。

とにかく悔しくて。

絶対に綺麗になってやる。そしてヒカルを見返してやる!

そう心に誓った。



そして

「絶対綺麗になって、ヒカルを後悔させるんだから!!」

そう言ったのに、ヒカルは余裕綽々で楽しそうに私の反応を見ていた。それがまたイラついて。

「謝ったって遅いからね!!」

私のことなんて気にもしてないに決まってる。

「どうして俺が後悔しなきゃならないんだよ」

ほら、やっぱりそうだ。自分には私がどうなろうと関係ないと思ってる。

「先生よりいい女になるの!」と言えば、「楽しみだな」とにこやかに笑った。

あまりにも楽しそうな様子が悔しくて、続けて言い返そうと思ったのだけど、ヒカルは私の言葉を遮るように言葉を続けた。



「俺のために綺麗になってくれんだろう?」



はい?

頭が真っ白になって、硬直してしまった。いま、ヒカルは何て言った?

俺のため・・・?

ヒカルを睨んだ視線のまま硬直してしまったから、今も視界の先にはヒカルがいる。

ヒカルは楽しそうな微笑を浮かべたまま私のことを見つめていた。

え?何?

なんでヒカルのためって・・・・・。えっと、それって、私の気持ち知っている?

かぁぁーと顔に血が一気にのぼる。

なんで?どうして?

「だから、俺のために綺麗になってくれるんだろう?」

硬直したままの私にヒカルはにっこり笑ってもう一度そう言ってきた。

なんだか余裕綽綽な様子で、しかも言葉にからかうようなニュアンスさえもあって・・・

だから思わず。

「なんでヒカルのためなんかに!」

そう言い返してしまった。

「あれ?違うのか?」

明らかにワザとびっくりしたような顔をヒカルはした。

余裕たっぷりで明らかに私の反応を楽しんでいる
。
確実に私の気持ちを知っているんだ、そう思った。

それがわかると、ますます恥ずかしくて。どこか誤魔化したい気持ちにもなって。

「う、うぬぼれないでよ!ヒカルのためな訳無いでしょう!」

そう言い返した。

「へー、じゃあ、誰のため?」

だけど、ヒカルはそんな私の反応を見て、クツクツと楽しそうに笑う。

楽しそうなそのヒカルの様子が何故か悔しくて。

「自分のためなの!!」

そう言ってみたのに、ヒカルはにっこりと笑うのだ。

「ふーん。でもあかりが綺麗ないい女になってくれるならどっちでも同じことだろう」

と。






「・・・・・」

もう何を言って良いのか浮かんでこなかった。

というよりも、さっきからのヒカルの言葉がグルグルと頭を回る。

だって、ヒカルは先生を・・・

でも、「俺のため」って。「同じこと」って。「楽しみ」って。

私はどういうことなのかわからなくて。いや、どこかでは解っていたのかもしれない。

それは、これからも私のそばに居てくれるということなのだろうか?

さっきまで「あかりなんか・・」って言っていたのに?




ヒカルを見れば、相変わらずな笑顔と穏やかな瞳で私を見下ろしていた。

その視線がなんだかいつもと違うような気がして、心臓が破裂しそうなほど鼓動が早くなる。

自分が真っ赤になっている自覚さえあった。

何を言って良いのか、どうすれば良いのかわからなくて、ただその場に立ち尽くしていた。

そうしていたら、ヒカルが柔らかく笑ったかと思うと不意に身をかがめて顔を寄せてきた。

ゆっくりと近づいてくるヒカルの顔。

心臓はさっきからドクドクと煩いぐらいに音を立てている。

何が起こっているのだろうか?目の前にいるのは本当にヒカルだろうか?

ヒカルが触れるほど近づいたのがわかると、体が勝手にビックと反応して、力が入って思わずギュッと手を握り締めてしまった。




「期待してるよ」

耳元で悪戯っぽく、どこか楽しそうな声が聞こえ、ヒカルはまたゆっくりと離れていった。




それは少しホッとしたけど、だけど・・・

え?と思う。

そして、カァーとさらに赤くなって、固まってしまった。

だって、その意味は・・・

だって・・・





赤い顔でヒカルを見れば、彼は私を満足そうな笑顔で見つめていたけど・・・

その後、ヒカルはいきなりケラケラ笑い出して、「顔真っ赤」と言って、とうとうお腹を抱えて笑い出した。




な、なんで!笑い出すのよ!

ヒカルがいきなり変なこと言うから。

いつもと違うから。

だから・・・

「だって、ヒカルが!!」

だけど声に力が入らない。

ヒカルはそんな私を楽しそうに見つめた後、ずぃっと一歩近づきながら「俺が何?」と聞いてくる。

「だって・・・・・」

思わず一歩下がりながら答えると、ヒカルはまたさらに笑い出す。




絶対ヒカルは私で遊んでいるんだ。

私の気持ちを知っているから、だからこんなに余裕なんだ。

だったら、もっと優しくしてくれていてもいいのに。


「な、何で笑うのよ!!」

ヒカルが余裕なことが悔しくて。




告白じゃないけど、なんだか気持ちが伝わって、

しかもヒカルもそうだったのだろうか?と思えるようなことがあった直後に

こう大爆笑されていることが、訳がわからなくて。

思わず泣きたくなってくる。



ヒカルは無理やり笑いを堪えながら謝ってくれたけど、私はフンっとそっぽを向く。

私は怒ったんだから!と。

だけどヒカルはそんな私を見ながら微笑んで。

「ほら、帰るぞ」

と、ゆっくり手を差し出してきた。

その眼差しがいつもより優しいような気がするのは気のせいだろうか?



怒っているんだから!と思ったけれど。

ヒカルは穏やかな瞳で私を見つめたまま、当然のように手を差し伸ばしている。

きっと私が当然その手を掴むだろうと疑いもせずに思っているのだろう。

その優しく伸ばされた手を見つめる。

そして、ゆっくりとその手に自分の手を重ねると、ヒカルはしっかりと握り締めてくれた。

それはいつもとは違って、まるで恋人同士がするように指を絡めて。





心臓がビックリするほどドクドクいっている。

期待しても、信じてもいいのだろうか?

たぶん赤くなっている顔をヒカルに向けると、ヒカルもちょっと照れたような表情をしていた。

「ほら、行くぞ」

少しぶっきらぼうに言うその言葉は照れ隠しなのだろうか?

しばらくヒカルに引っ張られるように、でもゆっくりと無言で歩いていた。

二人とも何も話さなかったけど、私は凄く嬉しくて。

なのに・・・


「でもなー。やっぱり先生は綺麗だよなー」

な、な、何なのー!!折角いいムードだったのに。

ムスーと睨み付ける。

「あかり。先生の連絡先ちゃんと聞いておけよ。後で和谷達に紹介して自慢しようっと」

その時を想像したのか、楽しそうに笑顔を作る。

「何で私が!!自分で聞けば良いでしょう」

「だって先生に綺麗になるコツを教えてもらうんだろう?それに先生が学校に居る間に俺はもう来れないし」

確かに教えてもらうって言ったけど・・・。

「あかりが教えて貰えよ。連絡係よろしくな」

あまりにもにこやかに言われるから怒れば良いのか、何なのかわからない。

だけど、連絡係って。ヒカルは私を通さないと先生には連絡取らないといってくれているのだろうか?

でも、会いたい訳なんだ。やっぱり悔しい。

「ヒカルってやっぱりヒドイ」

ムスーと呟いてみた。

「はぁ?何で」

ヒカルは訳解らないぞって顔をしかめるけど。

女心ってものをまったくわかってない!無神経にも程がある!!

「知らない!!自分で考えて!」

フン!って顔を背ける。

だけど・・・

「先生の連絡先は聞いといてあげる。私もいろいろ教えて貰いたいし。

そして絶対先生みたいに綺麗で素敵な女性になるんだから!!」

ヒカルは楽しそうに笑ってるけど。見ていなさい!絶対綺麗になってヒカルを慌てさせてあげるのだから!

今はヒカルの方が余裕で悔しいけど。そのころには私のほうが余裕になってやる!

だからヒカルに宣戦布告の意思を込めてにっこりと笑顔を向けると、ヒカルは満足そうに笑顔を返してきた。

その笑顔を見つめながら、私が覚悟しなさいって思ったのはたぶんヒカルにはわかっていないだろう。





もう少し続きます。 少しだけ、進んだ二人にもうちょっとお付き合いください。

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