「やっぱさー、違うんだよなー」
にこにこ、へへへ・・・とにやけながら顔を赤くしている進藤。
「あかりには変わらないだけどさ、やっぱさー、幼馴染と彼女じゃ何か違うんだよ」
照れているのか、目線を僕と合わせずに、あらぬ方に泳がせている。
「・・・・」
「あ、俺あかりとちゃんと付き合うことにしたから、言ったっけ?」
「・・・・聞いたよ」
そうだっけ?と今度は僕を真っ直ぐに見てにっこりと嬉しそうに笑う。
いつかは付き合うんだろうと思っていたし、付き合おうが幼馴染だろうが、
彼らに関しては変らない事だとずっと認識していた。
「なんか、すっげー可愛いしさー。まだあかり照れたりしたりしちゃってさー」
可愛いんだよなー、何かこう・・・・、と進藤が照れながらも嬉しそうに話している。
「・・・・・・」
「あれ、塔矢聞いてる? ああ、ごめん、さっきからあかりの話ばかりだよなー」
悪いなーと髪を掻きながら、やはり赤い顔で嬉しそうに笑っている。
幼馴染も恋人も変らないと思っていた僕が甘かったようだった。
今までの『自覚の無い惚気』から『自覚たっぷりのストレートな惚気』を
聞かされる羽目になったらしい。
僕は思わずため息をつき頭を抱えたが、進藤はまるで気にしていなかった。
と、こんなことがあったのはつい一ヶ月ほど前のこと。
あの時あんなに嬉しそうな顔をしていた進藤は、今目の前でしかめっ面をしている。
あかりさんと喧嘩でもしたのだろうか?
「この前、あいつの学校の文化祭行ったんだけどさ」
思い出したのか、ますます嫌そうな顔をする。
「あかりのやつ、もてるらしいんだよ」
・・・・は?
「だから、すっごくもてるらしいんだって!!」
きょとんとした僕にいらついたのか、声を荒立てる。
だが、僕としては・・・
「進藤。何を今更言っているんだ?」
当たり前だろう、あかりさんがもてるのは。まったく頭が痛い。
「今更って、塔矢知っていたのかよ!」
びっくりした顔をして、進藤は身を乗り出してきた。
「少し考えればわかることだろう?」
もてない訳がないじゃないか。
あれだけ可愛くて、明るく、優しいし、料理も出来るし、気も利くし。
「まったく、気がつかなかったのは君ぐらいだよ」
この僕がもてるんだろうな、と思うぐらいだ。
進藤を見れば、うっ!と言葉に詰まった後、すごく困り果てた顔をした。
「塔矢ぁ―、どうしよう?」
何がだろう?
「どうしよう?あかり誰かに取られたら・・・」
青い顔をしながら、頭を抱えている進藤。
「どうしようと言われても・・・・」
頭を抱えたいのは僕の方だった。
進藤は相談する相手を完全に間違えてる。この分野は僕の管轄外だ!!
「和谷さんや伊角さんに相談してみたらどうだ?」
進藤は彼らと仲がいいし、年上だし、少なくとも僕より適任だ。
「ダメだって!バレたら何言われるかわからないじゃないか!」
奈瀬や門脇さんたちにも絶対バレる!!とか何とか言っている。
と言うことは、あかりさんとのことは僕や緒方さん達しか知らないという事か・・・
ある可能性が頭をよぎり少し呆然としてしまう。
「なあ、塔矢―。どうすればいいと思う?」
進藤は困った顔をして素直に僕を見つめてくる。
「まあ、大切にするしかないんじゃないか?」
そう言うと進藤はそうだよなーとか神妙に言っていたが、それでも不安そうな青い顔をしている。
しかし、進藤は何を心配しているのだろうか?どう考えても要らぬ心配だ。
「あかりさんが君がいいと言っているんだから、そんなに心配する必要ないんじゃないか?」
あかりさんを見ていればわかることなのに。
「え! そ、そうかなー」
へらっと照れて笑う進藤。
「でもさー、あかり可愛いだろう?心配だよなー、あかりにそのつもりなくても、
勘違い男とかいるかもしれないし」
痴漢とか、ストーカーとか・・・とぶつぶつと言いながらも、
あいつ可愛いからさーと何度も繰り返す。
僕は少し頭痛を感じながら、先ほどの可能性を確信する。
つまり。
進藤の惚気を僕が一人で聞くことになるのか・・・・
しかも、先日のつき合う事でパワーアップした2人の仲の良さが目に浮かぶ。
ぶつぶつと真面目な顔をして何か呟いている進藤を横目に、僕は今回も頭を抱えた。
・・・慣れよう、慣れるしかない。進藤とは一生付き合っていくことになるのだ。
大丈夫だ、努力すればきっと。
僕は盛大な溜め息をつきながら、覚悟を決めた。
塔矢君にも知られざる努力があったのです。