アキラ君のため息の訳
◆アキラ君16歳の秋◆



「やっぱさー、違うんだよなー」

にこにこ、へへへ・・・とにやけながら顔を赤くしている進藤。

「あかりには変わらないだけどさ、やっぱさー、幼馴染と彼女じゃ何か違うんだよ」

照れているのか、目線を僕と合わせずに、あらぬ方に泳がせている。

「・・・・」

「あ、俺あかりとちゃんと付き合うことにしたから、言ったっけ?」

「・・・・聞いたよ」

そうだっけ?と今度は僕を真っ直ぐに見てにっこりと嬉しそうに笑う。




いつかは付き合うんだろうと思っていたし、付き合おうが幼馴染だろうが、

彼らに関しては変らない事だとずっと認識していた。

「なんか、すっげー可愛いしさー。まだあかり照れたりしたりしちゃってさー」

可愛いんだよなー、何かこう・・・・、と進藤が照れながらも嬉しそうに話している。

「・・・・・・」

「あれ、塔矢聞いてる? ああ、ごめん、さっきからあかりの話ばかりだよなー」

悪いなーと髪を掻きながら、やはり赤い顔で嬉しそうに笑っている。




幼馴染も恋人も変らないと思っていた僕が甘かったようだった。

今までの『自覚の無い惚気』から『自覚たっぷりのストレートな惚気』を

聞かされる羽目になったらしい。

僕は思わずため息をつき頭を抱えたが、進藤はまるで気にしていなかった。





と、こんなことがあったのはつい一ヶ月ほど前のこと。

あの時あんなに嬉しそうな顔をしていた進藤は、今目の前でしかめっ面をしている。

あかりさんと喧嘩でもしたのだろうか?

「この前、あいつの学校の文化祭行ったんだけどさ」

思い出したのか、ますます嫌そうな顔をする。

「あかりのやつ、もてるらしいんだよ」

・・・・は?

「だから、すっごくもてるらしいんだって!!」

きょとんとした僕にいらついたのか、声を荒立てる。

だが、僕としては・・・

「進藤。何を今更言っているんだ?」

当たり前だろう、あかりさんがもてるのは。まったく頭が痛い。

「今更って、塔矢知っていたのかよ!」

びっくりした顔をして、進藤は身を乗り出してきた。

「少し考えればわかることだろう?」

もてない訳がないじゃないか。

あれだけ可愛くて、明るく、優しいし、料理も出来るし、気も利くし。

「まったく、気がつかなかったのは君ぐらいだよ」

この僕がもてるんだろうな、と思うぐらいだ。

進藤を見れば、うっ!と言葉に詰まった後、すごく困り果てた顔をした。

「塔矢ぁ―、どうしよう?」

何がだろう?

「どうしよう?あかり誰かに取られたら・・・」

青い顔をしながら、頭を抱えている進藤。

「どうしようと言われても・・・・」

頭を抱えたいのは僕の方だった。

進藤は相談する相手を完全に間違えてる。この分野は僕の管轄外だ!!

「和谷さんや伊角さんに相談してみたらどうだ?」

進藤は彼らと仲がいいし、年上だし、少なくとも僕より適任だ。

「ダメだって!バレたら何言われるかわからないじゃないか!」

奈瀬や門脇さんたちにも絶対バレる!!とか何とか言っている。

と言うことは、あかりさんとのことは僕や緒方さん達しか知らないという事か・・・




ある可能性が頭をよぎり少し呆然としてしまう。

「なあ、塔矢―。どうすればいいと思う?」

進藤は困った顔をして素直に僕を見つめてくる。

「まあ、大切にするしかないんじゃないか?」

そう言うと進藤はそうだよなーとか神妙に言っていたが、それでも不安そうな青い顔をしている。

しかし、進藤は何を心配しているのだろうか?どう考えても要らぬ心配だ。

「あかりさんが君がいいと言っているんだから、そんなに心配する必要ないんじゃないか?」

あかりさんを見ていればわかることなのに。

「え! そ、そうかなー」

へらっと照れて笑う進藤。

「でもさー、あかり可愛いだろう?心配だよなー、あかりにそのつもりなくても、

勘違い男とかいるかもしれないし」

痴漢とか、ストーカーとか・・・とぶつぶつと言いながらも、

あいつ可愛いからさーと何度も繰り返す。

僕は少し頭痛を感じながら、先ほどの可能性を確信する。

つまり。

進藤の惚気を僕が一人で聞くことになるのか・・・・

しかも、先日のつき合う事でパワーアップした2人の仲の良さが目に浮かぶ。

ぶつぶつと真面目な顔をして何か呟いている進藤を横目に、僕は今回も頭を抱えた。




・・・慣れよう、慣れるしかない。進藤とは一生付き合っていくことになるのだ。

大丈夫だ、努力すればきっと。



僕は盛大な溜め息をつきながら、覚悟を決めた。




塔矢君にも知られざる努力があったのです。

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