アキラ君のため息の訳
◆アキラ君17歳の冬◆


目の前で仲良さそうに話す2人。

その横で僕はあかりさんの手料理に手を伸ばす。

「ヒカル。頑張ってね」

「おう!まかせろって」

北斗祭の選手のトーナメントが始まるのだ。

「それにしても、塔矢はずるいよなー。今回も免除かよ」

ムッスーと進藤が睨みつけてくるが。

「実力だ」

心底悔しそうな顔をしている。

「俺だって、もう大分塔矢に追いついているはずだぜ!」

「でも、僕のほうが勝率はいいからね」

フルフルと悔しそうに手を握り締める。

「ヒカル。大丈夫だって。ヒカルなら絶対トーナメント勝ち残れるよ。ね、塔矢君」

にっこり笑ってあかりさんが僕に肯定を求める。

「当然だよ。そうしてくれないと困る」

当たり前だ、僕のライバルなのだから。

「ね、ヒカル」

あかりさんの笑顔に機嫌を治し、やる気をだす進藤。



進藤にとってあかりさんは無くてはならない存在なのだろう。

傍にいれば感じ取れる。こういった料理の差し入れだけじゃなく、精神的にも支えている。

進藤はそのことに気がついているのだろうか?

まあ、僕としては進藤がやる気をだし、精神的に安定して、強くなっていくことが望みだから、

あかりさんの存在は貴重だ。

進藤にはいつまでも好敵手で居て欲しいのだから。

僕が強くなっていくためにも。




ふと、目の前の料理に目を落とす。

今日は手作りのお弁当を差し入れしてくれた。

まったく進藤は幸運なやつだ・・・

あかりさんみたいな女性が、幼い頃からすぐ傍に普通に居たなんて。



羨ましくないと言ったら嘘になる。

2人を見ていれば僕にもそういう女性がいればな、と思うこともある。

だけど・・・・

自分の周りに女性と言えば、年上の女流棋士たちなど碁関係の人たちばかりだ。

あと、市河さん?あかりさんは論外だし。

ファンだと言って近づいてくる子達はどうも苦手だ。

話したこともない相手を『好きです』って・・・。

大体、キャアキャアと騒がれて、何を話していいか全くわからない。



仲良さそうに話している2人を見る。

僕も、僕の経歴や外見などを気にせず、僕自身を見てくれる女性がいい。

あかりさんが進藤を見るように。

そして・・・

あかりさんは支えて尽くす女性かもしれないけど、僕は自分の道を歩く女性がいい。

僕は僕の道を、彼女は彼女の道を、お互い切磋琢磨して前に進んでいけたら・・・・。



ふとそんなことを考えていたら、あかりさんが心配そうに覗き込んできた。

「ごめんなさい、嫌いなものでもあった?」

僕の箸が進んでいなかったせいだろう。

「あ、ごめん。ちょっと考え事してて・・・。そんなこと無い美味しいよ」

よかった、とあかりさんが嬉しそうに笑うと、進藤はちょっとムッとする。

まったく、進藤のこういうところは相変らずだ。

進藤はもう大切な女性に出会った。

僕は、この先出会うことができるだろうか?

でも、まあ、緒方さんでさえまだなようだから、僕はまだ焦らなくてもいいはずだ。

僕は今は碁に専念するべきだし・・・


そう思いながらも、僕は微かに溜め息をついていた。




塔矢君も普通の男の子です。 当然異性にだって興味のあるお年頃。 でも、ファンの女の子達と話すのは苦手そうかなと。

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