目の前で仲良さそうに話す2人。
その横で僕はあかりさんの手料理に手を伸ばす。
「ヒカル。頑張ってね」
「おう!まかせろって」
北斗祭の選手のトーナメントが始まるのだ。
「それにしても、塔矢はずるいよなー。今回も免除かよ」
ムッスーと進藤が睨みつけてくるが。
「実力だ」
心底悔しそうな顔をしている。
「俺だって、もう大分塔矢に追いついているはずだぜ!」
「でも、僕のほうが勝率はいいからね」
フルフルと悔しそうに手を握り締める。
「ヒカル。大丈夫だって。ヒカルなら絶対トーナメント勝ち残れるよ。ね、塔矢君」
にっこり笑ってあかりさんが僕に肯定を求める。
「当然だよ。そうしてくれないと困る」
当たり前だ、僕のライバルなのだから。
「ね、ヒカル」
あかりさんの笑顔に機嫌を治し、やる気をだす進藤。
進藤にとってあかりさんは無くてはならない存在なのだろう。
傍にいれば感じ取れる。こういった料理の差し入れだけじゃなく、精神的にも支えている。
進藤はそのことに気がついているのだろうか?
まあ、僕としては進藤がやる気をだし、精神的に安定して、強くなっていくことが望みだから、
あかりさんの存在は貴重だ。
進藤にはいつまでも好敵手で居て欲しいのだから。
僕が強くなっていくためにも。
ふと、目の前の料理に目を落とす。
今日は手作りのお弁当を差し入れしてくれた。
まったく進藤は幸運なやつだ・・・
あかりさんみたいな女性が、幼い頃からすぐ傍に普通に居たなんて。
羨ましくないと言ったら嘘になる。
2人を見ていれば僕にもそういう女性がいればな、と思うこともある。
だけど・・・・
自分の周りに女性と言えば、年上の女流棋士たちなど碁関係の人たちばかりだ。
あと、市河さん?あかりさんは論外だし。
ファンだと言って近づいてくる子達はどうも苦手だ。
話したこともない相手を『好きです』って・・・。
大体、キャアキャアと騒がれて、何を話していいか全くわからない。
仲良さそうに話している2人を見る。
僕も、僕の経歴や外見などを気にせず、僕自身を見てくれる女性がいい。
あかりさんが進藤を見るように。
そして・・・
あかりさんは支えて尽くす女性かもしれないけど、僕は自分の道を歩く女性がいい。
僕は僕の道を、彼女は彼女の道を、お互い切磋琢磨して前に進んでいけたら・・・・。
ふとそんなことを考えていたら、あかりさんが心配そうに覗き込んできた。
「ごめんなさい、嫌いなものでもあった?」
僕の箸が進んでいなかったせいだろう。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してて・・・。そんなこと無い美味しいよ」
よかった、とあかりさんが嬉しそうに笑うと、進藤はちょっとムッとする。
まったく、進藤のこういうところは相変らずだ。
進藤はもう大切な女性に出会った。
僕は、この先出会うことができるだろうか?
でも、まあ、緒方さんでさえまだなようだから、僕はまだ焦らなくてもいいはずだ。
僕は今は碁に専念するべきだし・・・
そう思いながらも、僕は微かに溜め息をついていた。
塔矢君も普通の男の子です。
当然異性にだって興味のあるお年頃。
でも、ファンの女の子達と話すのは苦手そうかなと。