アキラ君のため息の訳
◆アキラ君17歳の春◆



今日こそは言おう。

「疲れたよなー」

進藤が大きく息をつきながら、そうぼやいた。

北斗祭も無事終わり、今日は進藤と雑誌の取材に赴いたのだ。

僕と進藤は「同い年のライバル!!」ということでセットの仕事が入ることが多い。

「大体、なんで碁の取材なのにあんなに写真取られるわけ?しかも、いろいろ着替えさせられてさー」

ぶつぶつ文句をいいながら、目の前のラーメンをズズッと啜る。

「しかも、内容も碁とあんまり関係ないこと多いし」

彼女は?という質問に、笑顔で曖昧な答えを返して、上手く誤魔化していた。

進藤は結構こういう時に器用に受け答えできる。

僕は苦手だ・・・

だから、これから進藤に言うことだって、どうやって切り出せばいいのだろうか?

「まったく、疲れるよなー」

進藤が目の前で溜め息をつく。




「塔矢?どうかしたのか?」

あまり箸がすすんでいない僕に進藤が声をかける。

「いや、別に・・・」

そうか?疲れたのじゃないか?と言いながら、セットの餃子に手を伸ばす。

「そういえばさ、今度金子のじいさんに指導碁しに行かなきゃなんないんだよなー」

進藤が面倒くさそうにそう呟いた。

「え?」

「だから、この前のお礼にさ。北斗祭終ったから借り返せだってさ」

肩をすくめる進藤。

でも、これは・・・

「面倒だよなー」

「僕が行こう!!」

「へ?」

いきなり身を乗り出して、勢い良く言う僕に進藤は眼を丸くした。

「食事なら僕もいただいたし、もともとあそこは僕の家だし。

 やはり僕がお礼をするのが筋じゃないかと・・・・」

最後の方は、しどろもどろになっていた。

いろいろ理由を考えていた筈なのに、浮かんでこない。

「僕が指導碁に行ってはダメだろうか?」

恐る恐る進藤を見ると、唖然と僕を見返していた。

「ダメってことはないけど・・・。と、塔矢、お前?」

困惑した顔で僕を見る。

「あのさー。まさか・・・」

カァーと顔が赤くなるのが自分でもわかった。

「あの、その。やはりお礼はきちんとすべきだと・・・・」

「へぇー。お礼ねー」

楽しそうに目の前でにやにやと笑う進藤。

「料理美味しかったし・・・」

「ふーん」

進藤の顔を真っ直ぐに見ることができず、目の前の定食に目を落とす。

「くっ、くっ・・・。と、塔矢。顔、ま、真っ赤・・・・」

進藤がとうとう笑いを堪えられなくなったのか、げらげらと笑い出した。

「し、進藤!!」

「わ、わりー。でも、塔矢、お前・・・・・」

恋愛に興味ないかと思ってた・・・とか言いながら、思いっきり笑う。

「も、もう一度会って話してみたいと思っただけだ!!」

そう、話してみたいと思ったのだ、ゆっくりと。

少し話しただけだけど、落ち着いてはっきりしていて話しやすかった。

「し、しかし。あれだけ回りにいっぱいファンの娘がいるのになんで金子・・」

笑いながら言っているが・・・。聞き捨てならない!!

「なんでって失礼だな!!彼女はすばらしい女性じゃないか!!」

思わず怒鳴りつけると、進藤はびっくりと見返した。

「あ、ごめん」

そして、なんとか笑いを収めて真面目な顔をして考えだした。

「そっか、金子かー。うん、そうだな悪くない。
 
 塔矢にはあれくらいしっかりした方が似合ってるかもな」

そう言って、僕に向かってにっこりと笑顔を向けた。

「協力してやるよ、俺とあかりに任せておけって」

そして進藤は上機嫌にチャーハンに手を伸ばす。
まずはあかりに相談だよなー、と楽しそうに話しながら。

僕はそれを眺めながら、とりあえず今日言わなくてはと思っていたことが

一応成し遂げられたこととに安堵しつつ、

その進藤のあまりにも楽しそうな様子に一抹の不安を覚えて小さく溜め息をついた。




そして数日後。

棋院で手合いが終わり帰宅しようとしたところ、進藤に呼び止められた。

しかも満面の笑顔で。



「塔矢ちょっと・・・・」

そう言って、キョロキョロ回りを見回した後、廊下の隅に連れて行かれた。

「遊園地行こうぜ」

「?」

「だからさ。あかりと金子と四人で」

そう言ってにやーと笑う。

「空いている土日ある?」

鼓動が早くなるのが自分でもわかった。

「金子さ、今彼氏居ないってさ」

目の前で進藤が嬉しそうに笑っている。

「よかったよな、塔矢」

顔が赤くなる。でも、僕は・・・

「何も付き合いたいと言っている訳じゃ・・・・」

「照れている場合じゃないだろ。頑張れって!」

進藤は無邪気に応援してくれるが・・・

「しかし・・」

「彼女いるってすっげーいいぞ」

幸せそうに言う進藤。それは進藤を見ていればわかるが・・・

「遊園地行ったこと無いのだが、どうすれば・・・・」

「え!まじ?」

びっくりした顔でマジマジと僕を見つめる。

大体、何を話していいのだろうか?

「ま、何とかなるって。お前はお前らしくしてればいいからさ。後は任せておけって」

にっこり笑う進藤に何故か安心して。

僕は不安を吐き出すように、軽く息をついた。




ところで、このときの身を寄せ合いひそひそと何かを嬉しそうに話す光景が
彼らに対するある噂を増長させたことは、2人は知る由もなかった。




ちょっと塔矢君の方も書いてみようかなと。 前回で好みを少々入れて、今回アタック!直前編。 でも、結局 ひかりカップルに後押しされてのお付き合いになるかな。 そして、金子さんに「はっきりしてくれる?」と言われてしまうとか・・・

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