「やっぱやばいよなー」
目の前で進藤が溜め息をついた。
そして、バホッとベットに倒れこむ。
「進藤。ベットに横になる前にスーツぐらい脱げ」
しわになるじゃないか。
「わかってるって!!」
いやいや起き上がった進藤が、面倒くさそうにネクタイを外し、スーツを脱ぐ。
「まったく。何でイブに塔矢とホテルに泊まらなきゃいけないんだよ」
冗談じゃねーとブツブツ文句を言っている。でも、僕が望んだわけじゃない。
「仕事なんだから仕方ないだろう」
怒ったってどうしようもない。仕事なのだから。
「だって、塔矢。イブだぜ、イブ!! あかり怒ってるだろうなー」
はぁーとまた溜め息をつく。
「?仕事だぞ。怒る訳ないじゃないか」
「でも、きっと寂しがっているだろうなー」
そう言ってまた溜め息をつく。
「家族と一緒なんだろう?寂しいはずないじゃないか」
当然のようにそう言えば進藤は信じられないことを聞いたかのように見返してきた。
「塔矢、それマジで言ってる?」
どういうことだろうか?
「まさか、金子に何も言わずに来たとか、謝りもしてないとか・・・」
何を誤るのだろうか?
疑問を顔に浮かべていると、進藤はますます驚いた顔をしてきた。
「おい!ちょっと待ってって。今日はクリスマスイブなんだぞ!何も言ってこなかったのか?」
「いや、当然仕事なのは話してあるが。泊まりなのだし」
「それだけ?」
恐る恐る聞いてくる。
「それだけって・・・」
まずかったのだろうか?
「プレゼントは?まさか事前に渡してあるよな。会えないことも謝ってるよな」
「・・・・・」
この頃忙しく会っていなかったから、そう言えばまだクリスマスプレゼント渡していなかった。
僕の誕生日に会ったのが最後だろうか。
返事をしない僕に進藤は悟ったらしい。慌てた顔する。
「塔矢、まずいって。まずいよ、それ。
俺らただでさえあかりたちと時間合わなくって会える機会少ないのに」
それはわかっている。
「あいつらの周りにはあいつらと同じ環境の男がいっぱい居るんだって。
愛想つかされたらどうすんだよ!!」
「・・・・」
「努力しなきゃダメなんだって!!」
進藤が力説する。しかしどうやら進藤も和谷さんたちに諭されたようだ。
あーらしい、こーらしい、と言う話が続く。
そして、盛大な溜め息をつかれる。
「俺らやばいかも・・・・」
俺も散々あかり振り回してたからなー、と頭を抱えてぼやきながら。
まずいのだろうか。まずかったのだろうか?
『24日ってどうするの?』そう聞かれて、『24・25と泊まりで仕事なんだ。進藤も一緒だ』
とそう言ったら彼女は『そう』と別段いつもと変らず答えていたが・・・・
和谷さんの話だと女性にとってクリスマスなどのイベントごとは重要らしいのだ。
僕にしてみれば、クリスマスだろうとただの日であろうと、
会うことの出来る日が大切なのだと思うのだが。
まずかったのだろうか・・・・
そんなことを考えていたら。
「でもさー、塔矢はいいよなー。あかりってすっごくもてるからさー。もー心配で心配で。
街で待ち合わせすると、結構ナンパとかされているし。
いまだに告白してくるバカもいるし。その点金子は安心だろう?」
何気なく言っているようだが・・・・
「進藤。君はつくづく失礼だな。あかりさんに比べて彼女が劣るとでも言いたいのか!!」
侮辱は許すわけにはいかない。
思いっきり睨みつけると、進藤は慌てていい訳を始める。
「ち、違うって!そうじゃなくて。金子ってほら、なんか迫力あるだろう?
だから生半可な男は近づけないんだって!!
例えナンパ男が近づいたって自分で追い払えるだろう?
あかりは隙だらけからナンパ男が近づいてくるし、愛想良くてなかなか追っ払えないしさー。
そう言う意味だって!!金子を悪く言っているんじゃない!!」
違う違うと首を振る。
「進藤・・・」
本当だろうな、と更にきつく睨みつけると、コクコクと頷いていた。
「金子は格好良い女だって!あかりとはタイプ違うけど・・・」
そう言って、悪い!言い方が悪かった・・・と頭を下げた。
「でも、塔矢。とりあえずフォローはしといた方が良いって。
えっと、電話だ!電話しろよ!それと、明日仕事終ったら土産買って帰ろうぜ」
進藤はそう言ってから、俺もあかりにかけるからと嬉しそうな顔で携帯を取り上げて、
トイレの中に入っていった。
程なくして、中から微かに楽しそうな声が聞えてくる。
「そうだな、僕もかけよう」
携帯のメモリーを出しながら、ちょっと躊躇する。
怒っているのだろうか?確かに僕はこの手のことには気が回らない・・・
僕は深く溜め息をついた。
いろいろと勉強した方がいいのかも知れない、愛想をつかされるのは確かに困る。
今度彼女にもいろいろ希望を聞いてみよう。
そう思いながらも気を取り直し、メモリーを押す。
結局、僕も彼女と話をするのは嬉しいのだから。
翌日。
「あかりと金子今ごろ2人で勉強会だろ?」
「そうみたいだな」
昨日、それぞれの彼女から聞いた話。
「昨日も一緒だったらしいね」
僕がそう言うと、進藤は神妙な顔をする。
『クリスマスはみんな忙しいのよ、だから金子さんと二日とも一緒なの』
そう軽やかに言われたらしい。嫌味かなーと進藤は心配していた。
「今ごろ、何話してるんだろうな・・・・・」
「さあ?」
昨日『仕事じゃ仕方ないじゃない。全然構わないわよ。あかりと一緒だったから楽しかったわ』
そう普通に言われてしまった。これは逆にちょっと・・・・・
「俺たち、愛想つかされてないよなー」
は、は、は、と進藤が乾いた笑いを漏らす。
「そんな訳ないだろう」
僕は否定の言葉を返したが、その言葉には力が入らなかった。
結局その日のイベントの間、僕達は仕事中だというのに彼女達のことが気になって仕方なかった。
以前書いたクリスマスツリーの後書きで書いたクリスマスイブのお話。
どっかで書きたいな、と思っていたのでここに入れてしまいました。
さてさて、進藤君は和谷くんにいっぱい脅されてしまっています。
内緒にしていた報いなんですけどね。
私のひかりストーリーの中ではそういう設定です。