塔矢君家の食卓事情
■塔矢アキラ君 17歳の春 のとある午後■


部屋に入ると丁度塔矢対進藤の対局が終ったところだった。

進藤が負けたらしい、悔しそうに碁盤を睨んでいる。

「塔矢君。越智君が来て、差し入れ持ってきてくれたの」

塔矢がホゥと一息ついて碁盤から目を離したのを見計らって少女がそう声をかけた。

「ああ、越智君。よく来たね。それに差し入れありがとう」

立ち上がってにっこり笑いかける。

ほら、二人が並んだ姿は似合っているじゃないか。




「あのね、松華亭のお重で。この前テレビでやっていたお店で美味しいって」

相変らず松華亭の話は興奮気味に話している。

「僕の祖父からなんだ」

「ああ、ではきっとすごいお店のだろうね。わざわざ申し訳なかったね。

 お礼を言っといてもらえるかな」

僕が頷くと、お重を社から受け取って台所に運ぼうとした。

「ケーキも持ってきたんだ」

少女がさらに期待を膨らませた瞳で僕を見た。

よかった今日ケーキも持ってきておいて・・・

どうぞとその可愛らしい彼女にケーキの箱を渡す。

「あ、じゃあ。丁度いいからお茶にしますか?」

嬉しそうに微笑みながら彼女が提案したので、塔矢と僕、社は当然の様にそうですねと同意した。

ただ進藤だけが、悔しそうにまだ碁盤を睨んでいた。




荷物を泊まる部屋に置いてきて、戻ってくると

すでに彼女の手によってお茶の準備が着々と進んでいた。

本当に慣れた様子でお皿を並べ、お茶を用意する。

「越智君はコーヒー・紅茶・お茶、どれがいいですか?」

「紅茶で」と答えるとにっこり微笑んで紅茶を用意してくれる。

社はすでにお茶を飲んでいたし、塔矢の前にはコーヒーが置かれていた。

進藤はトイレにでも行っているのか、席を外していた。

「まずあかりさんから選んでいいよ」

塔矢が当然の様に彼女に声をかける。もちろん異論は無い。

「えーいいの?あ、じゃあ・・・」

真剣な顔をして、ケーキの箱の中身を睨んでいる。

どうしよう・・・と、中々決らないらしい。

その少女らしい行動に微笑ましい気分になる。

と、そこへ進藤が帰ってきたのだが・・・・・

「お、ケーキ!」

と、言って嬉しそうに当然の様にあかりさんの隣に座る。

思わず塔矢を見れば別段気にも留めていない様子で・・

「早く決めろよ」

少々あきれた様子で進藤があかりさんに声をかける。

「だって・・・」

困った顔をして進藤に答えるあかりさん。

「どれとで迷ってんだよ」

そう言って顔を近づけ一緒になって箱を覗き込む。

進藤近づき過ぎじゃないか!と思ったがあまりに自然な流れで突っ込むタイミングが無かった。

というかどうなっているんだろう?あかりさんは塔矢の彼女じゃないのだろうか?

これと、これで。どっちも美味しそうなの・・・と困ったように呟くあかりさんに。

ふーんと進藤は答えてから。無造作にその二つのケーキを箱から取り出して、二人の皿に乗せた。

「半分づつすりゃいいだろ」

「え!いいの?」

「別にいいって」
そんなほのぼのとした二人の世界の会話が目の前で繰り広げられている。

もう一体何がどうなっているのか判らなかった。

いや、多分頭のどこかでわかっているのだが、認めたくなくて・・・・

「あかり。俺、コーヒーな」

当然の様に名前を呼んで、コーヒーを頼む進藤。





よほど唖然としていたのかも知れなかった。

ポンポンと隣の社に叩かれる、慰めるかのように。

社を見れば、困ったような諦めたような顔をして僕に衝撃の事実を告げた。

「あかりさんは、進藤の彼女やで」

僕が目を見開いて絶句したのは言うまでも無い。




越智君、衝撃を受ける!編でした(^_^;) この後、この日の夜に続きます。

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