塔矢君家の食卓事情
★塔矢アキラ君 17歳の春 のとある夕刻★


あーだ、こーだ!と言い争いがわき道にそれ始めた。

あかりさんはため息をついて諦めたようだ。そして。

「あ、お吸い物とかまだありますよ。おかわりします?」

僕達のおわんが空になっているのに気がついたあかりさんが微笑みながら声をかける。

「あ、すみません。あかりさん」

お椀を手渡す。

「あ、あかりちゃん。俺にもね」

倉田さんもお椀を差し出している。

「あかりさん。俺もええかな。これうまいわ」

言い争いをしている二人をほっといて、僕たちは平和でほのぼのとした遣り取りをしていたのだが。

いつの間にか、二人の言い争いが止まって、

進藤が手を握り締めてふるふると震えながら僕達を睨んでいた。

「?」

と思ったときだった。




「なんで、お前らあかりちゃんだの。あかりさんだの。馴れ馴れしいんだよ!!」

今まで、気にしていなかったくせに、機嫌が悪い所為か急に気になったのだろう。

「大体、越智なんて今日会ったばっかだろう!」

しまった、対象が僕になった?

「悪かったよ。でもあかりさんの苗字しらないんだ」

そう、正式な紹介はされていない。あかりさんと皆が呼ぶから呼んでいるだけだ。

「あ!ごめんなさい。きちんと挨拶していなくて。藤崎あかりです」

慌ててあかりさんが挨拶して頭を下げたのだが。

「でも、あかりちゃんはあかりちゃんだしなー」

倉田さんは呼び方を変えるつもりはないらしい。

ギロリと倉田さんを睨む進藤。

まったく、そんなに独占欲が強いならこんな男ばかりのところに連れてこなければいいんだ。

会いたいんだか、自慢したいんだか知らないが。

「あ、あの。私は別にどう呼ばれても」

あかりさんは場を和ませようと必死である。

「そうだよ。進藤。別にあかりさんでもいいんじゃないか?」

落ち着いた感じで塔矢がそう言いだした。

今度は塔矢を睨む進藤に対して塔矢は続ける

「藤崎さんと呼んだって、どうせいつかはまたあかりさんと呼ぶようになるんだし。

 別に今からあかりさんと呼んでもいいだろう?」

当然の様に言う塔矢。

「?」

僕や社は一瞬何を意味しているかわからなかった。あかりさんもである。

「そういえば、そうだなー」

うん、うんと頷いているのは倉田さん。

進藤は言われた意味を考えているようだった。で、「ああそうか」と納得したようだが。

「うん。そういえばそうか。そっか。そうだよなー」

一転にこにこと機嫌よく頷く進藤。不思議そうに首を傾げるあかりさん。

赤く顔を染めて照れている進藤を見て、何となく解った。

つまり・・・・

馬鹿馬鹿しくなって、社と二人で顔を合わせてため息をついた。





「あー!!」

不意に進藤が大きな声を上げる。今度は一体なんなんだろうか?

「俺、まだそんなに食べてないのにー!!」

テーブルの上には殆ど空になりかけたお重とお皿。

「あかりの手料理ぃー」

悔しそうに呟く進藤。

「しまった。松華亭」

ぼそりとこぼす塔矢。

そして、満腹とばかりに反り返っている倉田さん。

進藤と塔矢はそんな倉田さんを一睨みしてから、数少ない残りの料理を猛然と口に運びはじめる。

あんな食べ方じゃ味なんて解らないだろに。

ふと隣を見ればあかりさんは悠然と、先にお皿にとってあった自分の分の松華亭の料理を

嬉しそうに食べている。

社はしっかり食べ終わってお茶をずずっとすすっていた。

僕はなんか疲れてしまって折角の料理に箸が進まなかった。




この合宿は碁の勉強のために来たはずだった。

こんなことで疲れるなんて・・・・。

しかも、進藤の・・・・


塔矢くんも進藤君もみんな食べ盛りな少年です。 で、料理とかもあまり出来ない男の子達かなーなんて思ったらある日浮かんできちゃいました。 で、変なお料理シリーズ化してしまったのですが・・・ その中に、進藤君焼もちを焼く編も混ぜてみました(いや、私の小説全部なんだけど・・・) なお、塔矢君は非常ーに生真面目で古風な少年の気がするので、あかりちゃんのことは 「将来の進藤の奥さん」ぐらいは本気で思っていると思われます。 ちなみに、さらにおまけを作ってしまいました。

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