これは夢だ・・・・
そう、夢だ。
周りは暗い闇で覆われていて、足元には細い道がある。
その道の上に一人で立っている。
道の下を見れば、底が見えないほどの深遠。
落ちるとどうなるかなんて知らない。
先を見れば、遥か上にある光に向かって道はますます細くなりながら、
なだらかな線を描いて続いている。
ゆっくりと振り向けば、今まで歩いてきた道が見えた。
道は先へと向かって少しずつ細くなっている・・・
これは夢だ・・・・
何度も見た夢。
ヒカルはそう思いながらも、ゆっくりと前へ一歩踏み出す。
踏みしめたはずなのに、その道はどこかあやふやで。
気を抜くと、道から落ちてしまいそうなほど。
一歩、一歩踏み出すたびに、心のどこかに恐怖にも似た感情がわいてくる。
どんどん細くなる道。
一人で歩む道。
ふと横を眺めれば、いくつもある同じような道の上に佇む人・座り込んで動かない人・踏み外し落ちていく人、
そして自分と同じようにゆっくりと前へ進んでいく人たち。
後ろを振り向けば、前を見据えて登ってくる多くの者達。
遥か先の光の方向をみれば、細い細い道の上をゆっくりと堅実に歩いて光へと進んでいる数人の姿。
そして少し先には塔矢が振り返ることなく、
真直ぐと前だけを見据えて確実に光へと向かって一歩一歩その細い道を歩んでいた。
まだ塔矢には追いつかない。
ヒカルはゆっくりと歩きだす。後ろへは決して戻ることの出来ない道。
細い細い道。
周りには暗い闇が広がり、目指す光は一つのみ。
足元の道はとてもあやふやで、暗くて不確かで・・・
「ヒカル、どうしたの?」
ふいに聞こえる明るい声。
声の方向を見ればあかりが笑いながら手を差し伸べてくる。
彼女の足元には明るく確かな道が広がり、その光は自分の細い道をも明るく照らす。
彼女の暖かい手を握れば、さきほどまでの恐怖がうそのように去っていく。
「ほら、行こう」
あかりがにっこり笑って、光の方向へと指を向ける。
「ああ、行こう」
彼女の手を握り、逆に彼女を引っ張るように今度はしっかりと歩き出す。
足元は先ほどとは違い、明るく照らされていて細くても踏み外すなんて思えない。
だからしっかりと前を見据えて、光に向かって歩き出す。
「あかり、早く。塔矢はもうあんなところまで行っているんだから!」
どれくらい歩いただろうか?しばらくして隣を歩いているあかりに声をかける。
だけど返事が無い。
「あかり?」
不思議に思って彼女を振り向けば、少し困ったような表情をしているあかり。
「あかり?ほら、行くぞ」
戸惑いながらも、立ち止まってしまっているあかりを促す。
だけど・・・
彼女は小さく首を振る。繋いでいた手がゆっくりと離れていく、そこから広がる寒さ・・・
「あかり?」
彼女は寂しそうに微かに微笑む。
「頑張ってね」
そう言って彼女は自分に向かって手をゆっくりと振る。
まるで私はここまで、というように。
「何言って・・」
戸惑いながらも、彼女のその手をもう一度掴もうとしても手が届かない。
「なんで・・」
驚いて彼女を見ると、その足元には彼女の道があって。
明るく確かな太い道。だけどその道は・・・
自分の道とは違う方向に向かっていた。
あかりはふわりと笑い、手を振り、その道の先へと歩みだす。
明るく確かな太い道。そして同じような数多の道が同じ方向へと続いていた。
いくつもの道が隣接し、まるで一つの大きな道のようになる。
彼女はその道を確かな足取りで歩いていく。
そして、同じように歩いてきた人たちと笑顔で語り合い、先へと共に歩みだす。
もうすでに、手を伸ばしても、声を上げても、彼女には届かない。
自分の道とは違う道。
ヒカルはもう一度自分の道を見つめる。
先へと向かって、細く細く続いていく道。
目的地は遥か上にあり、そこまでの道はあまりの細さに目を凝らしても届いているかわからない。
足元には確かに道があるが、その周りには深遠の闇が広がる。
先を見つめれば、光までの道は闇の中を続いていく。
ごくりとつばを飲み込む。
横を見れば、道の上で佇む人、座り込む人、落ちていく人。
先ほどまで暖かい手を握っていた手から冷たさが体中に広がる。
ゆっくりと広がっていく不安、孤独。
微かに震える足で道を踏みしめる。
前を見据える。
俺には立ち止まることは許されていない。
約束したのだから・・・
少し先には同じように前を見据えて進む塔矢の姿。
道は少しずつ幅を狭めながら、光へと続いている。
そこに到達できるものは限られた人のみ。
手から寒さが広がっていく。
先ほどまで明るかった足元が、暗く不確かなものになっていく・・・
だけど、俺には立ち止まることは許されていない。
あいつはあの光のもとにいるのだから・・
そこで俺をまっているのだから・・・
足元には暗い深遠の闇が渦を巻いて待ち構えている。
その上に細い細い道が続いていて・・・
ごくりとつばを飲む。
一歩、ゆっくりと足を進める。
そこには道が・・・
さて、「夢」です。