夢だ・・・ -2- 




「!!」

落ちる感覚がして目が覚めた。

体中にぐっしょりと汗をかいていた。

「夢・・・」

夢だってわかっていた。

もう何度も見た。

だけど、何度見ても・・・

いまだに心臓が激しく鼓動している。

微かに息が乱れている。

目に映るのは、カーテン越しに入ってくる明るい光。

いつもの自分の部屋の風景。






「ちくしょう・・・」

まだ夢の中の恐怖を引きずっている。

自分の弱い一面に嫌気が差してくる。

目を瞑れば、先ほどまでの夢の情景が浮かんでくる。

同時に広がる、孤独、寒さ、不安、恐怖。

暗い世界、細い道。そして、目指すその場所に立てる人は限られた人のみ。

「くそ!」

震えが残る手で、額を覆う。

微かに湿った感触。

情けなさで、思わず苦笑する。

きっと塔矢ならこんな夢なんて見ないだろう。

見てもきっとこんな風にはならないだろう。





自分の弱さが情けなくて、嫌気がさして・・・・

強く手を握り締めて・・・






コンコン






不意に聞こえてきたドアをノックする音。

母親だろうか?

「ヒカル。起きてる?」

中を窺うように遠慮がちに聞いてくるその声は。

「あかり?」

びっくりしてドアの方を見つめる。

何で・・・






「ヒカル。もうお昼だよ。起きて、入るよ」

ゆっくりとドアを開けて、中を覗き込むように窺ってきたのは。

さらさらとゆれる長い髪。大きな瞳。

その瞳が自分を捉え、少しホッとしたように微笑む。

「おはよう。起きた?」

にっこりといつもの笑顔で笑うあかり。

「あ、ああ・・」

ベットの上に上半身を起こして、戸惑いながら彼女を見つめる。





どうしてここにいるのだろう?

まだ夢の途中・・・





彼女はそんな自分を見つめて、楽しそうにくすくす笑いながらゆっくりと近づいてくる。

「おはよう、ヒカル。大丈夫?寝ぼけてる?」

ベットの脇まで来て、顔を覗き込むように寄せてくる。

「ほら、起きて! もうお昼過ぎているんだからね」

彼女はすぐ傍で微笑んだあと、軽やかな風のように身をひるがえして、離れていった。

微かにあかりの香りが漂う。





「何でいるの?」

今日は昼から約束していただろうか?

約束を忘れて寝坊したのだろうか?

でも確か今日は・・・





「えー、だって・・・。ほら、ヒカル。今日はいい天気だよ」

答えを中断して、彼女は部屋のカーテンを大きく開ける。

部屋に差し込む眩しい光。

その光の中、俺の方に振り向いてにこやかに笑うあかり。

いつものあかりだ。

夢ではなく、確かにここに。





「おはよう、あかり」

だから俺も彼女に笑顔を返す。

先ほどまで、激しく鼓動していた心臓がゆっくりと落ち着いている。

夢の中からついてきた闇は彼女の笑顔の前では意味をなさない。






近づいてくる彼女に、先ほどまで震えていた手をゆっくりとしっかりと伸ばし、その腕を掴む。

「で、何で?」

どうして、ここに居てくれているのだろう?

夢から覚めて一番最初に見ることができた顔があかりだったのだろう?







「だって、おば様一人じゃ大変でしょう。手伝いに来たの」

手伝い?ああ、今日は・・・

「自分のお祝いなのに?」

彼女の顔を見上げながら、掴んだ腕でその存在を引き寄せる。

「でも、7人分だし大変だから」

その返事を聞きながら、彼女の腰に手を回す。

「それにヒカルのお祝いでもあるでしょう?」

今日はあかりの大学合格祝いと俺の北斗祭出場決定祝いを進藤家・藤崎家で一緒に行う。

と言っても俺の出場は4度目のことだし、どちらかと言うとあかりの合格祝いがメインだろう。

もしかすると、ただ単に親たちが飲んで騒ぎたいだけかもしれないけど・・・

母さんなどは、昨日から部屋の片付けだの買出しだので大騒ぎだ。

つまり、あかりは今日の祝い会の準備手伝いに来たという訳で。





「ふーん」

納得した俺は、彼女の体を抱き寄せる。

俺はベットの上で半身だけ起き上がった状態で、

彼女は立っていたから抱き寄せると自然俺の頭が彼女の柔らかい体に沈むことになる。

「えっ!ちょっと!!」

頭上からあかりの慌てた声が聞こえたけど、気に留めない。

「あかり、暖かいや」

彼女の体に顔をうずめる。

柔らかく暖かいあかり。

「今日はいい日だよなー。」

見た夢は最悪だったけど、それでも朝一番に見た顔があかりで、一番に聞いた声があかりで、

一番に言葉を交わしたのも、触れたのも、あかりで・・・・

最悪の夢の残像など、あかりのこの暖かさで溶け出していく。






俺は上機嫌になって、ますますあかりに回した腕に力をこめて、

その柔らかい体を強く抱きしめる。

「柔らかいや」

俺が嬉しそうに言うと、あかりはますます慌てたようだ。

「ヒ、ヒカル!ちょっと離して」

あかりの手が俺の肩に置かれ、俺を離そうとする。

「やだ。もうちょっと」

あかりの存在を確かめるように抱きしめる。

あかりは確かにこの場所にいて、こんなにも暖かい。






俺はただあかりにこうして触れているだけでよかったのだけど・・・








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