西の善き魔女
◇ 月の過去 -2- ◇


「ルーン!」

少年はいきなり『名前』を呼ばれて現実に戻された。

「フィ、フィリエル? 」

びっくりして目の前を見つめれば、そこには輝くばかりの眩しい光が笑っていた。




目の前に広がる何よりも輝く光。

あの日彼の目の前にいきなり現れた光。

あの日彼を闇の中から連れ出してくれた光。

『彼』を『ぼく』にしてくれた光。





『フィリエル』という名の眩しい光。





大丈夫。今はあの頃ではない。あの冷たい闇の中ではない・・・







「何をしていたの?」

少年は目の前の少女を眩しそうに見つめた後、ゆっくりと月に瞳を移す。

やわらかくやさしい光を放つ月に。


「月をね、見ていたんだ」

正確には月を通して過去を・・




「月を?星じゃなくて?」

大切な光が不思議そうに首を傾げる。

そしてその琥珀色の瞳を夜空に浮かぶ大きな月に向けた。

「うわー。今日は綺麗な月だね。でも、星も月もセラフィールドの方が綺麗な気がしない?」

琥珀の瞳がぼくを見つめる。

「ここは光が多すぎるんだ。それにセラフィールドの方が高地だし、空気も澄んでいるから」

ぼくがそう説明すると、目の前の光は嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、やっぱりセラフィールドが一番だね」



ぼくが初めて光を感じることが出来た場所。

初めて暖かさを感じることが出来た場所。

ぼくが初めて大切だと思えるものを見つけた場所。

だから

「そうだね」

ぼくはそう答え、静かにその大切な光を見つめる。







ぼくが見つめていたせいだろうか、月を見ていたフィリエルは「どうかした?」と小さく小首をかしげる。

なんでもないと言うように首を軽く振ると彼女はいきなりぼくの腕を?んで引っ張り出した。

「フィ、フィリエル?」

慌てたぼくを彼女は笑いながら部屋の中へと誘う。

「準備ができたの。ほら、ルーン早く。みんな待っているのよ」

フィリエルがぼくを誘った場所は、まるで昼間のように明るく暖かい部屋。






「何をボーとしていたんだ?」

部屋の中に入るとユーシスが声を掛けてきた。

「おい、ボーとは無いだろう。軍師どのだぞ。

そうだな、これからのグラールについて思慮に耽っていたとか」

ロットが苦笑しながら親友の言葉をたしなめる。

「ふん、どうせ暗いことでも考えていたんだろう」

レアンドラがワイン片手にそう言えば。

「とりあえず、お座りくださいな」

と、妹姫がにこやかに微笑む。

「ルーン。座ろう」

フィリエルがぼくの手を引いて、テーブルを囲む席へと誘った。







暖炉には炎が暖かい光を放ちながら燃えていて、

部屋の中は灯りに照らされてまるで昼間のように明るかった。

テーブルの上には美味しそうな料理の数々が温かい湯気を上げていた。

そして、テーブルの周りには仲間たちが座っていて、ぼくにやわらかい微笑みを向ける。

隣を見れば、フィリエルが「美味しそう」と嬉しそうに笑っている。

この光が溢れる部屋の中で、一番明るく輝く光。

「ルーン。いっぱい食べてね」

フィリエルがぼくに輝くばかりの笑顔を向ける。

この光が傍にある限り、ぼくは二度と闇に包まれることはないだろう。

だから僕は、その大切な光に眼差しを向ける。












現在に戻ってまいりました、ルーン君。 別名「いや、暗いですねー」の第一弾。とりあえずここで一段落。 一度パソコンと共にすっ飛んで、やっと書き上げました。 私はこの作品ではルーン君が一番お気に入りです。 暗くてひねくれているくせに、心を開いた人には根の素直なところを見せるのが良いです。 深遠の闇を知っている彼だからこそ、誰よりも光を明るく感じられると思うのです。 さて、続きがあります。「いや、暗いですねー」第2弾! ルーン君の暗い独白バージョン? 一度一気に書き上げたものなのですが、もう一度書くのも結構大変なものですね・・ 同じものを目指すのがまずいのでしょうか?

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