西の善き魔女
◇ 月の過去 -3- ◇



「3女王制に乾杯!!」

レアンドラの音頭で宴会が始まった。

「まったく3女王制だなんて。先が思いやられるよ」

「まあ、お兄様。もう弱気なんですの?」

「まったくだよ、ユーシス。3女王制なんて歴史に類を見ないことだぞ。

これに関われるなんて光栄なことだよ。ワクワクするね」

「男爵。あなたは楽観過ぎます!もっとまじめにお考えください」

「あら、イグレイン。わたくしもワクワクしていてよ。参謀役として腕がなりますわ。

みていなさい旧体制の者たち!!」

「まあ、ヴィンセント。わたくしも頑張りますわ。

二人で頭の固い古い人たちを退治してしまいましょう」

その旧体制の派閥の旗頭となってもおかしくは無い姫君と

保守派の女王候補と呼ばれていた姫君は二人でしっかりと手を握り合う。

「それでは、お二人の護衛は私にお任せください。

美しい姫君お二人をお守りできるなんて騎士として光栄なことです」

と、にこにこと男爵が二人の姫君に笑顔を向ける。

その光景を見て、少々まじめすぎる伯爵令息と男装の令嬢が小さくため息をつく。

「おい、国内の方もいいが、国外のこともある。ブリギオンに早急に手を打たなければ」

レアンドラが別の問題を提起すれば。

「しかし、軍隊は駄目なんだろう?」

「ああ、だから影の方法を取るのだが。もちろん、和睦交渉という手もあるが・・」

ユーシスの問いかけにレアンドラが真面目な面持ちで答える。



そんな会話がテーブルの上を飛び交っていたのだが・・・






「はい、ルーン。これも美味しいわよ、食べてね」

にっこりと微笑みながらフィリエルがルーンに料理を取り分けた小皿を渡す。

ルーンはその小皿を受け取り、無言でもくもくと食べていた。

彼は昔から食事の最中はあまりしゃべらない。

だけど、フィリエルはそんな彼を嬉しそうに見つめながら「ねぇ、何かもっと飲む?お酒は駄目だから・・・」と、

甲斐甲斐しくルーンの世話を焼いていた。



ほのぼの、ほのぼの、彼らの周りだけ穏やかな空気が流れているようだった。



「お前たち・・・・」

「まあ、相変わらず仲がおよろしいのねぇ」

二人の姉妹が一人は呆れて頭を抱え、一人が少し困ったような笑顔を浮かべる。





「え?あの・・」

フィリエルは戸惑ってこちらを見つめる仲間たちを見返した。

ルーンに食事を取ってあげて何がいけないというのだろうか?

せっかくの美味しそうな料理なのに、冷めてしまったらもったいない。

やはり料理は温かいうちに食べたほうが美味しいではないか!

間違いなく女王家直系の姫君なのだが、辺境の高原育ちという少々変った経歴を持つ少女は、

美味しそうな温かい料理にほとんど手をつけていない彼らの方が信じられなかった。

「みんな食べないの?美味しいのに・・・」

それに、すぐに食事をするのを忘れてしまうルーンに

食べられるときはしっかりと食べてもらわなくては!!





「・・・・食べるのは構わないが。君も我々と同じく次期女王の一人として立つのだから、

少しは話し合いに参加したらどうだ」

レアンドラが呆れたように言う。

「女王と言われても・・・」

フィリエルはちょっと戸惑った顔をする。

「あら、フィリエル。私たちと女王になるのは嫌なのですか?」

女王の一人になるのは仕方ないかもしれない。

だけど、女王になったら、なってしまったら。

今までと同じようにルーンは自分の傍に本当にいてくれるだろうか?いられるのだろうか?






フィリエルは少し不安そうに隣のルーンを見つめる。

「別にぼくはフィリエルが女王になっても、ならなくてもどちらでも構わないよ。

傍に居ることには変わらないし」

もくもくと食事をしていたルーンが不意に言葉を発する。

「第一、もう後戻りできないだろう。ぼくたちは知りすぎてしまった」

そう、確かにもう後戻りはできない。いろいろなことを知りすぎてしまった。

私もルーンも。






「ふーん。そう、だったら・・・」

レアンドラは立ち上がり、ルーンの方へと歩み寄る。

「ねぇ、ルーン。だったら考えてくれるでしょう?」

ワザとしなをつくり、甘い声をかける。

「これからグラールはどうしたらいいのかを」

やわらかく体をよせて、妖艶な微笑を浮かべる。

「ねぇ、ルーン。ブリギオンをどうしたらいいと思う?」

甘い息を吹きかける。






「な!レアンドラ!ルーンから離れて!!」

フィリエルがレアンドラの反対側から怒りの声を上げる。

「あら、構わないでしょう?ルーンはあなたのものと決まったわけではないのだし」

挑発するようにくすくす笑うレアンドラ。その姿も艶かしい。

「ルーンは私のなの!離して!!」

フィリエルもルーンの片腕をとり、ぐっと引っ張る。

「独り占めなんて女王家の人間にあるまじきことだよ」

そう断言して、ますますルーンに体を寄せてくる。

「レアンドラ!!ルーンもどうして抵抗しないのよ!」

フィリエルの怒りはとうとうルーンにも及ぶ。






まったく、レアンドラはあきらかにフィリエルをからかって楽しんでいる。

ルーンは小さくため息をついた。

「フィリエル、レアンドラとぼくは何でもないから。レアンドラも離して」

フィリエルはそれでもルーンとレアンドラをキッとにらみつける。

なんといっても南での一件以来ルーンとレアンドラは仲がよい。

「あら、じゃあ考えてくれる?」

最後にもう一度甘く囁き、怒ったフィリエルを楽しそうに見つめてレアンドラは自分の席へと帰っていった。

でも安心できないフィリエルは「自分の物!」とばかりにルーンの腕を掴んだまま、

レアンドラを睨み付ける。






「フィリエル。心配はいらないから離して」

そうこの少女が心配する必要なんてまったくない。あるはずがなかった。

不満げな顔をしてぼくを見つめる少女。

ぼくにとってのユーナ。

この大切な光を守るためならば・・・

「レアンドラ。ちゃんと考えるよ」







さて、「暗いですねー」第2弾です。 ちょっと始めは明るくしてみました。 一応、この場にいる設定の方々に台詞を。 できるだけ、彼らのキャラを壊さないように心がけてみたのですが・・・・ なお、ルーン×フィリエルにちょっかい出して楽しむレアンドラさん♪ 私の好きなパターンです(^^)v

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