サ ヴ ァ イ ヴ
◇ う わ さ ◇



飛行が安定し艦内を自由に動けるようになってから、私は父に断り部屋を後にする。

もちろん、客室係でも捕まえて、カオルに連絡してもらおうと思ったからだ。

しかし・・・・

「ハワード?」

艦内でハワードを見つけた。

「よう!メノリ。久しぶり」

明るい声が響く。

「ああ、久しぶりだな。しかし、いいのか?」

サングラスをかけているが、どうみてもハワードだとわかる。

一応、俳優のはずだが(しかも人気の)

「ん?いいんだって。僕ぐらいのアクターになれば、隠そうとしたって輝きっていうのは

やはり隠せないものさ」

にっこりと笑ってから、真っ直ぐに私に向かって歩いてくる。

しかし、これは彼流の冗談なのか、それとも本気なのか。

思わず脳裏にはシャアラの笑顔が浮かんでくる。

「元気だったか?」

ハワードは私の傍により、近くの椅子を勧めてくれた。

「ああ、私は相変らずだが。それよりも婚約おめでとう」

とりあえず素直に座り、ハワードにお祝いの言葉を述べる。

が、ハワードはエッ!という顔をしたあと、慌てて回りを見回した。

「メ、メノリ。何で知ってるんだよ。と、とりあえずそれは今は」

あまりに慌てるハワードに少々むかつく。何を内緒にしているのだろうか?

「シャアラのやつ。もう言ったのか・・・。注意もしないで」

あいつ、こういうところはホント抜けてんだから、とハァ〜とため息をつき、

とりあえずあまり言わないでくれと頼んできた。

私がムッとした顔したせいだろう、ほら騒がれると煩いからと説明してきた。

まあ、当然かもしれないか。




で、ハワードにカオルと一緒に食事でもしないか?

と聞いてみたらハワードまで顔をしかめた。まったくなんなのだろう。

私が連絡を取ろうと言ったら、慌ててハワードは僕が取るから!!と言ってきた。

しかも、カオルと2人では会わない方がいいとまで念押しして。

「貴様。シャアラと婚約したくせに何を言っているんだ」

思わず声を荒立てると、ハワードは慌てて回りを確認してから、

私を宥めつつ「違う!そういう意味じゃない!」と焦って弁明した。




私が、シンゴとハワードの忠告の意味がわかるのはもう少ししてからだった。

それがわかったのは、三人での食事が済んだ後。

大きな船なので、個室のあるレストランがあった。

その個室での食事を用意したとハワードから連絡が入り、何を大げさなと思いつつも、

ハワードの立場を考えれば当然かと納得して赴いた。

個室に入る直前に、カオルと再会したのだ。



「久しぶりだな。メノリ」

穏やかに微笑んでカオルが握手を求めてきた。

「ああ。カオルも元気そうでなによりだ」

私も笑顔で答える。

そうすると、カオルはさらに笑顔になった。

と、いってもやはり微笑みぐらいなのだが。

思わず我々は懐かしく、その場で立ち話を少ししてしまっていたら、

後からきたハワードが慌てて私達2人を個室に連れ込んだ。

そこから暫く食事と会話を楽しんだ。

お互いの近況から、ハワードとシャアラの婚約話。ハワードの映画の話。

それから、この前同じ船にクルーとしてカオルとシンゴが乗り込んだときの話とか。

シンゴには女友達がいっぱいいるらしい、

とカオルが感心したように言っていた隣で何故かハワードは怪しげな顔をしていた。




とにかく、楽しくひと時を過ごし部屋をでてのだが・・・

「カオル、久しぶりに話せて嬉しかった。また航海中に機会があれば会おう」

そう言うと、カオルは優しく笑って「ああ、時間が出来たら連絡する」と言い、その場を立ち去った。

のだが・・・・




なんか先ほどから目線を感じる・・・・

しかも、「きゃー。カオル様が笑われたわ!!」という声が微かに聞えてきて・・

「落ち込んじゃダメよ。きっと何かの間違えよ」なんて声も聞える。

しかもカオルが居なくなった後、どこからとも無く現われた女性がキッ!!と私を睨み立ち去っていったり、

あるいは私を見てため息をつき涙を流しながら駆け出していったり・・・・・

振り向けば、ハワードがため息をつきながら頭を抱えていた。

「・・・ハワード。なんだこれは?」

先ほどから明らかに何人もの女性の痛い視線を感じる。



「だから、会うのはやめた方がと言ったんだ。

しかも、お前のために個室にしたのに、個室の前でカオルと笑い合うなんて、自業自得だからな」

なんなんだ、一体?

「まったく。僕がいるのに、なんでカオルの方が・・・・」

ぶつぶつと悔しそうにハワードが呟く。

「おい、ハワード。説明しろ!!」



つまり。

カオルは非常にもてるらしい。宇宙船関係の女性達憧れの的なのだそうだ。

そのくせ、まったく女性になびかない。

密かにファンクラブまであるとのことだから相当だ。

一般の搭乗客にもファンがいて、どんどんその数は増えているというのだから。

中には当然、ファン心理ではなく本気の女性達もいっぱいいるわけで・・・・

「お前、この航海中。カオルファンに睨まれるぞ・・・」

なんと言っても、カオルの笑顔をもらってるからな。そうハワードが言うが。

「まて、私に向ける笑顔なんてささやかなものじゃないか。ルナに比べれば」

私や他の仲間たちに向ける笑顔とルナに向けるそれとでは雲泥の差があるというのに。

「残念ながら、比較対象が無い」

ハワードが肩をすくめて言う。ルナは地球にいる。




確かに、カオルはめったに笑わない。あの遭難から戻ってきてからも。

でも、以前の様な顔はしなくなった。同じ仏頂面でも以前とはずいぶん雰囲気が違う。

だいぶ優しくなった。それに楽しい時にはちゃんと笑うようになったし。

優しい顔もするようになった。

ただ、ルナが傍にいるときと、いないときでは、笑顔でも雲泥の差が出るのだ。



「やっぱりめったに笑わないんだと、あいつ」

女性に優しく笑いかけるなんて、それこそ・・・と、肩をすくめる。

サーと血の気が引くような気がした。

私はこの船の女性クルー達を敵にまわしたのだろうか?

「私とカオルはなんでもないぞ」

恐る恐るハワードに訴えるが。

「それをみんな知らないしなー。お前らすごく似合ってるし、傍から見ても」

美男、美女でさとハワードが楽しそうに言い始めた。

「お前!楽しんでいるな!!」

「だから!!僕はメノリにちゃんと気を使って個室とったり、連絡は僕がしたりしただろう!!」

ハワードが憤慨して言い返すが。

「ばか者!!何故、はっきりと先に言わないんだ!!」

言ってくれていれば、もう少し気を使った。時間差で個室からでるとか・・・

脳裏にはシンゴの「お勧めしないよ・・・」という言葉がよぎる。

つまり、こういうことなのか・・・



カオル君もてるだろうな、だけど相手にしないだろうなーと思ったのと。 大人メノリさんが綺麗だったので、思わず「災難メノリさん!!」が 浮かんできてしまったのです。 あとちょっと続きます。

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